COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

守る世界に、キミはいるのか
平木明日香
平木明日香

獄炎蝶

第250話

公開日時: 2024年7月7日(日) 16:55
文字数:558


 「退(の)け」



 低いトーン。


 声の質は軽やかだ。


 ナイフのように鋭い切先を持っている。


 糸を切る程度の刃音。


 しかし、その“音波(おと)”は、確かな実体を運ぶだけの質量を帯びていた。


 “黒い炎”が、空気の色そのものを変えながら近づいて来た。



 「ぐ…ッ」



 キョウカは苦悶の表情を浮かべながら、首元を掴む腕を引き剥がそうとする。


 腕の先にいたのは、“堕天使”の紋様のついたスーツを身に纏う、赤髪の悪魔だった。


 瞳は冷たく、紅い。


 瞳孔は細く尖っており、どこかとめどない殺気を帯びていた。


 “殺気”といえど、はっきりとした輪郭の中にそれが犇めいているわけではない。


 むしろ、落ち着いている。


 冷え切った氷のようでもある。


 ゆったりとした息遣いの中に、緩やかな動作が流れている。


 不気味なほどに穏やかな足取りから、少しずつ膨れ上がっていく熱気。



 少女。



 揺れる赤い髪の下に見える肌の色は白く、透き通っていた。


 伸び切った腕の先には、細長い指。


 キョウカの首に食い込んだ爪は鋭い。


 華奢な腕からは想像もできないほどの力強さが、微動だにしない動作の傍で感じられた。


 対峙する悪魔が只者ではないことは、遠目からでもわかった。


 しかしその“風貌”は、殺気に満ちた禍々しさからは程遠い“幼さ”を秘めていた。


 キョウカや真琴たちと変わらない年代の女の子だった。


 見た目の点だけで言えば。




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