幾本もの触手が束になり、ターンした相手天使の後ろを追尾する。
同様に前からも新たな触手を生やし、降下する進行方向を迎え撃つように水飛沫が舞った。
相手はさらに加速した。
迫り来る水流を前に、ブレーキをかける素振りもなく。
後方へ風を展開する。
それは落下速度を高めるために使用された“一手”だった。
「拒絶(リジェクト)」
前方から飛び出してきた触手と真正面からぶつかるや否や、相手天使が通る進行方向に“穴”が開く。
——トンネル。
ただ、あり得なかった。
ウォータープールはいわば魔力で形成された巨大な「壁」だ。
相手の魔力量を見る限り、その壁を打ち壊すことなどできるわけもなく、ましてや、リオン君の魔法領域を力づくで妨害することなどできない。
にも関わらず、相手は凄まじい勢いで中心へと滑空した。
ズザァァァァァァ
水面が綻ぶ。
波紋が行き渡る。
回転する渦の波はとめどない濁流を起こしながら、球体の表面上に複雑な模様を形成する。
降下する相手天使と接触した後、表面の水の膜は壊れたように飛散し、弾けた。
降下速度は維持されたままだった。
水の中で白い気泡がボコボコと暴れ、一本の「線」が、深々と中心に向かって伸びていく。
さながらその姿は「槍」だった。
地面に突き刺さる槍。
ぶ厚い水の層をもろともせず、真っ逆さまに“落下“していく。
ドンッ
一直線に突き進んだその軌跡は、ウォータープールの真ん中へと鋭い爪痕を残していた。
リオン君の体を貫く風の銃弾。
ウォータープールの中央までくり抜かれた大気の渦。
フィールドに「雨」が降る。
それはウォータープールが解除されたことによる、大量の水の落下だ。
ウォータープールを形成していた何万リットルもの水が、崩れ去ったように地上へと落下を始める。
「やられたな」
「…え?」
「どんな手を使ったのか知らないが、リオンの展開していた魔法が強制的に解除された」
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