えーっと、「無事に着けた?」。
優しい先輩だなぁ。
返信入れとこ。
“無事に着けたけど、状況が芳しくありません”
と。
「誰から?」
「…あ、いや」
「そういえばあんた、生前の記憶は?」
「それ、よく聞かれるんですけど、大事なことなんですか?」
「まさか、記憶無いの?」
「…はい」
事務局の人にも聞かれたりした。
もちろん、真琴先輩にも。
記憶がないって言うか、うろ覚えなんだ。
烏森町に住んでいたっていうこととか、烏森高校に通ってたっていうことは覚えてる。
だけど友達の顔とか、自分の住んでた場所とか、思い出そうとすればするほどボヤけてしまう。
自分の名前だってそうだ。
魔法省の人に教えてもらうまでは、勅使河原っていう苗字でさえ思い出せなかった。
“交通事故で死んだ”っていうことも。
「事故死ねぇ」
「どうかしたんですか?」
「いや、別に。珍しいなと思って。ここらへんは事故なんて滅多に無いのに」
夏木先輩の担当区は、烏森町を含む名古屋市中川区の全域となっている。
管制塔はちょうど中川区のセンター街にある。
中川区全域とは言っても、最近は隣町の八田町で謎の失踪事件が相次いでいることから、主なパトロール場所がこの付近となっているらしい。
真琴先輩のチームがしばらく烏森町の担当になってたのも、それが理由。
事件はまだ解決の糸口も掴めていないみたいだった。
魔物が襲った痕跡もなく、人間の仕業だっていうことさえも、よくわかってないみたいで。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!