距離にして数メートル。
三叉戟の投擲は凍りつく息遣いの中にあった。
息を止めた数秒。
キョウカの口元には、噛み締めた歯の並びがあり、立ち上る白い煙があった。
体の内側から滲み出る吐息。
指先に流し込む血流。
鈍い音がした。
それは間違いなかった。
かなりの衝撃が空間を揺らした。
大気を。
風の流れを。
球体の内部。
投げ込まれた三叉戟が、衝撃波の袂を揺らす。
ゴォッ…!
波紋が周囲へと行き渡る時、前方を覆う暗闇の中から、形容し難い魔力の“乱れ”があった。
電波障害が起きるときに生じるノイズ。
耳を跳ねる雑音が、白く濁る空気中に伝播した。
水の中に砂が混じるような、歯車の噛み合わせが悪くなる時のような、——感触。
周囲の空気を白く染めるほどの魔力の流れが、キョウカの攻撃によって生じていたのも事実だ。
しかしその流れの大半は、球体の“外側”に位置する範囲に生じていた。
暗闇の“奥”。
キョウカが狙いを澄ましていた場所に、近づいてくる「何か」がある。
…近づいて?
キョウカは投げ放した三叉戟の行方を追う前に、衝撃波の波の動きがおかしいことに気づいた。
ほとんど直感に近い感覚だった。
針の隙間ほども無い大きさ。
反応速度が追いつかないほどの小さな隙間を、縫って。
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