「そこをどけ」
悪魔は刀身を下げたまま歩みを進める。
声のトーンはやはり落ち着いている。
冷静で、沈むような音色だ。
一見すると無防備にも思えるような緩やかな足取り。
坂本は警戒を解かなかった。
敵の動きはもちろん、その一つ一つの“挙動”について。
距離は十分あるにしても、相手の出方次第では一気に戦況が変わる。
ディスチャージの効果はすでに切れていた。
夜月は急ぎ電流を地面に走らせた。
地面で繋がっている限りは、坂本と常に“通信”ができる。
2人は今“同じ地面”の上にいる。
距離は離れていたが、夜月の電気的な接続はその範囲をものともしなかった。
坂本は彼女からの伝達を得た。
相手の属性。
魔力の“質”。
ディスチャージの領域内で得た情報もすでに頭の中に入っていたが、夜月はこの短時間の間でより深い分析を行っていた。
それは、自らが受けた敵の攻撃が、どのような性質を持っていたかの具体的な情報だった。
立体面積あたりの魔力純度は天使と遜色がない。
問題はその「魔力」が、どの程度の“示量性“を持っているかだった。
魔力を持つもの同士の戦いに於いて、もっとも重要なのがこの部分だ。
天使も悪魔も、“魔力総量”という固有値を持ち合わせているが、この物質的な”大きさ”やエネルギー自体の範囲を求めるときに、Sという量記号が用いられる。
あらゆる生物、無生物には自己情報量というものが存在し、その数値が大きければ大きいほど、魔力としての“密度”も濃くなる。
また、自己情報量とは情報量の大きさを定量化した数値のことである。
「S」という量記号は情報の不確実性の大きさを表す量のことで、その値が大きければ大きいほど、その対象となる存在の「強度」が増す、という考え方ができるだろう。
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