「だが、まだ終わったわけじゃない」
リオン君はほくそ笑むように、自分の胸を貫いた相手の手を掴んでいた。
「惜しかったね。もう少しで心臓をやられるところだったよ」
相手は、急いで手を引っこ抜こうとする。
けど、抜けない。
咄嗟の判断で、もう片方の手を勢いよく振り上げた。
振り上げた右手の手のひらには、急速に回転しようとする大気の渦が。
ハリケーン。
至近距離から放つ、広範囲魔法。
その範囲を狭め、より高威力に出力するための予備動作を取っていた。
「今の一撃で行動不能にできなかったのが、相手の運の尽きだ」
先輩が教えてくれた。
リオン君の「特性」を。
「リオンは元々近接攻撃が得意な“ファイター”だ。私と同じさ。武器を持たないのも。遠距離からの攻撃を好まないのも」
「え、でも…」
「リオンの特性が活きる領域は“数メートル内”でしかない。ただその数メートル内に於いて、アイツは鉄壁の防御力を誇る」
高密度に収束する風のエネルギー体がリオン君の体に襲いかかる。
しかしそれは届かなかった。
振りかざした相手の右手が予期せぬ方向に“曲がる”。
正しくは、“捻れる”と言ったほうがいいのかもしれない。
手のひらの上で風の魔法が消失する。
出力されようとしていた先で、不自然な挙動が空間内に走った。
「屈折(リフレクション)」
光が水にぶつかると、その界面を境に物質が歪んでいるように見える。
例えば、水中に差し込んだ棒が曲がって見える現象は、空気の屈折率が約1.0003、水の屈折率が約1.3330と異なるためだ。
これを「光の屈折」という。
リオン君の特性。
指定した範囲の魔力流域、及び物質の進行方向を強制的に“曲げる”。
その曲率はリオン君の体の周囲に近ければ近いほど大きく、離れれば離れるほど小さくなる。
リオン君の体の数メートル内に於いて、“全ての物質と魔法は直進できない“。
イメージとしてはそういった感じだろうか?
展開しようとしていた相手の動きが、”反対方向に曲がったように見えた“のは。
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