風と翼が交錯する。
飛散する水の飛沫。
膨張する大気。
次々と迫る水の触手を切り裂きながら、相手天使は飛行していた。
猛スピードで展開していた。
「風」の銃弾を。
先回りされている触手を避けるように左へ回り、後ろから追跡してくる触手を引き離そうと、後続へ大気の壁をぶつけていた。
ボンッという破裂音。
花火のように散る水。
なおも接近を続けるおびただしい数の触手から逃れようと、途中大きく回り込んだ。
楕円形の軌道を描く放物線。
向かってくる触手の“内側”へと舵を取るコーナーワーク。
水は相手天使の飛行軌道に重なるように交錯し、幾重にも織り重なりながらうねっていた。
力強く柔らかい弾力が、立体的な軌道面に踊る。
フィールドの端から端まで目一杯に使い、上昇と下降を何度も繰り返しては、風と水が交互にぶつかる。
制限高度ギリギリまで飛翔した。
上昇した直後のことだ。
相手が急激な方向転換を見せたのは。
膝の角度が60°になり、両足が天井の壁(大気の層)にぴったりとついた。
左手で壁を強く押し、上半身を反対向き(壁を蹴った後に進む方向)に押し上げる。
バタバタと大気の流れの最中に降下し、重力を利用した落下速度の加速を試みる。
球体から離れれば離れるほど触手の距離が長くなる。
長くなるということは、その分触手自体の移動範囲が「広く」なる。
その“立体的な空間”を狙い、触手と触手の間をすり抜けようと試みていた。
球体の中にいる、——リオン君を目がけて。
「天使同士の戦いは、“初見”がもっとも肝心なんだ」
「へ?」
「ま、これは魔物との戦いにも言えることかな。「戦い」っていうのはそういうもんだ。基本的に」
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