反応が遅れる。
真琴は弓を引くと同時に、意識が泳いだ。
目の前を通過していく飛翔体は、“特定の位置に向かって”進んでいるわけではない。
シールドを破壊するための一撃。
——だとすれば、弓を向けなければいけないのはシールドの中。
その奥に続いている、魔力の「奔流」だ。
選択は間違っていない。
あらゆる「可能性」という側面を加味しても、“断層から敵が侵入してくるかもしれない”という可能性を排除するわけにはいかない。
矢の先端を1箇所に集める。
意識を集中させる。
しかし、それも束の間だった。
目の前を通過していく飛翔体が、空中で何かにぶつかったように弾け、バラバラに”飛散”してからは——
飛翔体は線を引いていた。
天守閣の下にいた者たちにとっては、それが流れ星のような「光」を溢し、空中を滑っているように視えた。
それほどまでに速く、鋭かった。
ただ、その「光」は黒く、淡い輪郭を伸ばしていた。
まるで、インクが滲んだようなボヤけが、線の外側を這うように広がっていた。
粘り気があり、太く丸み帯びた質感が「黒」の中に染み込んでいた。
ジェルのようなぬめりもあった。
水のように滑らかな性質を持って流れていく反面、液体にしては弾力があり、靄のような細かい粒子が、光の内部を薄く引き伸ばすように織り重なっていた。
黒い靄、——物質。
その物体の「形質」が何かを、すぐに認識できたものはいなかった。
空中で飛散していく様子を目の当たりにした直後、地上にいたものたちは一同に視線を動かす。
一足先にその“異変”に気づいていた真琴は、弓ごと体を反転させた。
僅かな破裂音を周囲に響かせながら、四散する飛翔体。
その中心に焦点を当てた。
細い指先から、弦が伸びていく。
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