チサトは大気圏に於いては自由自在に移動できる。
風属性の天使ならではの特徴だ。
キョウカが掴まれると同時に上空へと舞い上がっていた。
三叉戟が破壊された衝撃波は、確かな振動となって彼女の元に届いていた。
“攻撃が届かなかった”
そう認識した意識の片隅で、天守閣の屋根を蹴る。
大気を揺り動かしたのは、彼女の「風」だった。
自らが風となることで、より速く宙へと跳ぶ。
“重力の拘束”を解く。
解いた重力の隙間を縫うように、上空に向かって風が吹き荒れた。
屋根の上には、くっきりとした足跡が残っていた。
ストーミー・クラウドの風域圏も功を奏した。
追い風になったのだ。
瞬時に上空へと移動すると、その勢いのまま、キョウカの後ろ髪が持ち上がった。
キョウカの首を掴んでいる腕。
——狙いは、腕が伸びている側の半身だった。
(三叉戟の修復は間に合わない)
天使の持つギアは、所有者の魔力が尽きない限りは何度でも具現化できる。
いわば体の一部のようなもので、例えバラバラになったとしても修復は可能だった。
しかし間に合わないと、チサトは踏んでいた。
キョウカの投擲によって距離もだいぶ離れていた。
“リンク”を切れば、ただのエーテル粒子の残骸として捨て置くことができるが、その場合再度出力しなければならない。
右腕に魔力を込める。
最短かつ、高威力の一撃。
手のひらに凝集させた風を、1箇所にまとめ上げる。
できるだけ無防備な場所を狙う。
空間に風の層を張り、右足でそれを踏んだ。
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