『雪月花』
彼女の指先から放たれた矢は、一直線に亀裂の中に潜り込んだ。
亀裂の内部では、高濃度のエーテルで満たされたエネルギーの流域が広がっている。
「雪月花」は広範囲に及ぶ雪の紋章を空間内に”刻む“ことができる技の一つだが、彼女はそれをシールドに使う魔力のソースに変換した。
亀裂の内部と外部とを隔てる境目にポイントを当てて矢を放ち、炸裂させる。
亀裂の表面を覆うほどに広範囲に広がった衝撃波は、みるみるうちに空間を凍らし、空気の色を変えるほどの変遷を雪崩のように迸らせた。
膨張するエネルギーの奔流が矢の炸裂地点から拡大し、巨大な雪の結晶が網を広げたように蔓延する。
重く、深みのある質感が、天守閣の内部で波打ちながら弾ける。
その“振動”は、外にいるものたちの耳にも届いていた。
亀裂の内部は絶えず巨大なエネルギーが駆け巡っている嵐のような場所だ。
エーテルの濃度が濃い分、物理的な法則も地上とは大きく異なる。
しかし「魔法」を使うという観点に於いては、通常よりも遥かに魔力伝導率が高く、魔力が実体へと変換される「負荷」も最小限の抵抗力で済む側面がある。
つまり、外側からシールドを貼るよりも、中で魔力を炸裂させ、より強度の伴う「壁」を作り出すことをキョウカは狙っていた。
亀裂の内側からは、矢の炸裂に伴って溢れ出た氷の「膜」が、ぶ厚い壁を形成しながら膨らんでいった。
それに合わせて、キョウカはもう1発の「雪月花」を放つ。
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