COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

守る世界に、キミはいるのか
平木明日香
平木明日香

第220話

公開日時: 2024年5月29日(水) 20:21
文字数:1,175



 紐を結ぶように。


 また、破れた紙をテープで貼り合わせるように。



 キョウカは魔力操作に於いて、より高度な回路を組み込むことに長けた操作系の能力者だった。


 一度実体化された魔法を別の形に変換することは、魔力の流れや構造をよく理解しているものでないと、より高度な領域において細かい操作が難しくなる。


 雪月花は「霧雨」に比べて魔力出力量が多い分、単位時間あたりに操作できる領域が格段に下がり、空間あたりの質量濃度、及び魔力流域に於いても、通常の魔力操作に比べて編集できる量や“範囲”が限定される。


 しかし、キョウカは自らの魔力を実体へと変換する上で、より細分化された手法を取る傾向にあった。


 通常より大きな魔力を具現化・具象化しようと考える時、魔力を出力する上での障害は周囲の環境や敵の状態、自らの魔力総量、純度、その他様々な内外的要因が加味されるが、基本的な戦術としては、「魔力効率」という側面に於いてもっとも直線的なアプローチが、部分的にも全体的にも利用される。


 天使の戦術に於ける基本原則の一つは、いかに【ローリスクハイリターンの行動】の選択・対応を連続できるかだ。


 中途半端な魔力操作や、魔法を構成する上でのアプローチは、かえって戦況を不利にしてしまう要因となりかねない。


 他の天使たちと比べて、キョウカはより用心深い立ち回りを徹底しようとする。


 それは彼女の魔力コントロールの技術と、魔法に対する知識の高さがあってこそ成り立つ“方法”だった。



 雪月花の形状を変化させる。


 

 その選択を、この“場面”で取れる天使はそうそう居ない。


 巨大な質量を伴う魔法には、遠隔で操作できる範囲や領域が相対的に限られてしまう性質にある。


 リオンやカーティスのように、常に魔力と魔法量の接合部をリンクできる領域で自らの「技」を扱える環境にいれば、出力する魔法自体の質量や密度を、条件に見合う環境下に於いて自在に変化させることができるだろう。


 彼らがバトルフェスティバルで見せた戦いは、「魔力」という流域に於いて常に流動的な「属性間物質」を出し入れできる状態にあったと言える。


 キョウカは天守閣から離れた場所にいた。


 すなわち、雪月花からはある程度離れた場所にいた。


 それにも関わらず、遠隔でその形状を変化させようとした。


 大気という空間、及び自らの魔力流域を通じて分子レベルの「氷」を操作する場合とは勝手が違う。


 雪月花を形状ごと変化させるには、それ相応の時間とエネルギーが必要だった。


 その物理的な障害をすり抜けるかの如く、美しい氷の花弁は、僅かな空気の揺れの中に煌めいていた。


 穴が空いた雪月花の中心が急速な修復を見せたのは、ちょうど、砕けた氷柱が落下する数秒後のことだった。


 「残雪」によって常に流動的な形状の変化を可能にできるネットワーク下にあった「花」は、敵の攻撃を封じ込めるように中心に向かって収縮した。

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