「風船」の正体は、“粘土質の液体”だった。
それが風船のように見えたのは、ちょうど、夜月と真琴の周りの空間を囲うように広がった液体が、均一かつ滑らかな表面を持つ楕円形の物体として、薄い膜を張っていたからだ。
夜月は信号を送っていた。
リンと同じく夜月は雷属性の天使だ。
彼女はチームの司令塔としての役割をそつなくこなせる。
チーム内の他の天使とのやり取りはチャットポッドを介して行われるが、緊急を要する事態には、互いの魔力器官を通じて意思の疎通を図る。
これは他のチームや天使にも同様のことが言えるが、夜月が指揮系統の中心にいるときには、チームの連携能力は格段に跳ね上がる。
それぞれの魔力と連結させたチャットポッド内の電子回線を活用すれば、情報を瞬時に伝達できる。
チャットポッド内のネットワークには、各種設定に応じた複数の「回線」が存在しているが、その領域を狭めれば狭めるほど回線速度は速くなり、情報をよりスムーズに共有することができる。
夜月はこのネットワーク回線を介さずとも、チーム内のメンバーに電気信号を送ることができた。
情報を送受信するまでの速度自体は変わらないものの、彼女は自らの領域内においては、文字通りチームの「脳」となることができた。
夜月が展開していた電磁フィールド、「ディスチャージ」には、フィールド内の電気的な物質とケーブル回線のような伝送路を構築することができる性質があった。
領域自体の半径は決まっているが、少なくともこの場にいるメンバーとは全員“リンク状態”にあった。
リンク状態にある天使は、夜月の意識をそのまま受け取ることができる。
本丸御殿の屋根で待機していた緑間桔平は、「紫電」に移行する前の夜月の意思を感じ取っていた。
「ファイヤーアロー」のチームの強みは、夜月の意識にある行動の選択を、あらかじめ“符号化”していることにある。
夜月が選択した意思・思考に応じていくつかのルートに分布した電気回線があり、その回線内に付随する情報源の情報を、伝達のためのシンボル列に変換する処理がなされた領域が、すなわちファイヤーアロー内での「共通のプロトコル」となっていた。
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