「なッ…!」
鋭い槍の形状に窪み始めていたはずの球体表面が、岩のように硬くなる。
キョウカは確かな感触を拾っていた。
三叉戟は確かに命中した。
それは確かだった。
槍は球体の内部へと侵入していくはずだった。
「球体そのもの」は靄のように細やかな粒子で覆われていた。
密度が濃い魔力が対流し、せめぎ合う魔力の奔流が激しく渦巻いていることは察知していた。
ただ、それが「物質」でないことは認識していた。
だからこそ、内部、——その深くに狙いを澄ませたのだ。
魔力が生まれている中心。
その「正体」が何かはわからなかったが、そこに届き得るだけのエネルギーを三叉戟に込めていた。
まっすぐ向かっていくはずだった。
手のひらの中に残る感触は、はっきりとした線と質感を帯びていた。
ガッ
三叉戟はひしゃげたように球体表面で潰れた。
侵入した後の空間で止まり、大半の部分が衝突と同時に折れ曲がっていた。
何かに“ぶつかった”
直感的には、何かぶ厚い壁が目の前にあるかのようだった。
エネルギーそのものを堰き止める何か。
一体、何が…
ズッ
視線が揺り動いた時、キョウカの意識は暗転する。
首元に突然衝撃が走る。
三叉戟が球体の表面で変形した直後だ。
暗闇から、真っ直ぐ伸びてくる“腕”があった。
「ゴホッ…!」
その腕はギリギリまで近づいていたキョウカの動きを、——瞬時に、強制的に堰き止める。
咄嗟のことで、キョウカは反応しきれなかった。
球体にはかなり接近していた。
それ故に、前方からの景色の“変化”を即座に読み取れなかった。
球体自体は巨大なエネルギーの塊だった。
だからこそ、目の前に敵の反応があることは、通常の感覚の中では捉えきれなかった。
黒い、手。
伸びてきた腕の先にいたのは、——「悪魔」だ。
禍々しいほどに歪んだ魔力が、暗闇の底から持ち上がって来ていた。
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