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夏木リンは一時的に“全ての魔力と互換できる”特性を持つ。
『超電導』と呼ばれる特性だ。
敵味方問わず魔力流域が発生している「場」に於いて、自らの魔力をその流域内にリンク=接続することができる。
魔力流域に発生している「流域場」というのは、本来であれば所有者の魔力と常に相関関係にあり、人間で言うところの【体全体を動かすための「血管」の役割】を果たしている。
他人の血管に入り込み、その血流を自らの体内に流し込むことは肉体的な危険性を孕むだけでなく、それを“互換性”のあるものに置き換えることは、例え同属性の天使同士であっても相応の準備と適応期間が必要だった。
自らの魔法流域を他者の魔法流域と絡め合うことはできても、それを相互的に「結合」することは物理上あり得ない内部構造を持っているためだ。
しかしリンの特性はその法則を無視する。
実際には、他者の魔力流域を自らの魔力量に置き換え、それを乗算できる(掛け合わせられる)わけではない。
あらゆる魔力流域を「水」に置き換える。
この場合で言う「水」と言うのは、あらゆる物質を媒介できる⇄媒質化できる物理的な「場」のことを指し、魔力流域そのものをあらゆるエネルギーに変換可能な経路へと、“転換可能にする”という意味だ。
「シールドを捨てた!?」
「…いや、どうだろう」
リンが攻撃を繰り出している最中、周囲に持ち上がる砂塵の波。
カーティスは消費エネルギーを“補充”できる。
しかしそのためには、必要最小限の動きでエネルギー能率の質を高める時間が必要だった。
リンはカーティスの魔力流域内を媒介し、その「魔力量」を自らの出力領域へと変換していた。
この時点で互いの魔力総量には差が出始めていた。
カーティスの魔力流域を利用し、自らの魔力消費量を最小限に抑えるリン。
「超電導」の特性でもっとも重要なのは、“魔力が流れている場に常に身を置くこと”だ。
そうすることで、リンはその「場」の魔力を自らの「魔力消費量」に分配し、それをエネルギーとして活用することができる。
カーティスはたまらずに後ろへと後退していた。
壁を修復するには時間が足りない。
互いの魔力効率がぶつかる直線距離はリンの選択と行動に依存している。
攻撃の「先」。
その“先端距離”にリンが動いている限り、防御への意識を欠くことができずにいた。
電撃によって弾ける砂の壁は、修復への時間をすでに脱ぎ捨てていた。
後ろへと後退するステップの跳躍に混ぜる、砂塵の津波。
視界を塞ぐ。
しかしこの選択は悪手だった。
カーティスは認知していなかったわけではない。
リンの「視界」はフィールド上の電磁波そのものを立体的に拡張できる。
砂塵による目眩しなど、ほとんどその効力を持たないのは承知の上だった。
カーティスが展開しようとしたのはその「物量」だ。
砂を流動させ、地形そのものを防御の“起点”に変える。
敵の視界を防ぐことはできなくても、地面の上はあくまで自分のフィールドだ。
その自負だけは、常に胸の内側にひしめいていた。
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