紫電。
夜月の“脚力”とも呼ばれる技。
脱力した状態からの重心移動。
彼女の中での判断は一つだった。
上空から訪れる闇。
その景色の“変化”を機に、思考を爆発させる。
膝の下に電流を走らせる。
それは重心の移動に際する意識を、地面のより近い場所へと移動させるためだ。
夜月の持つ電流は、身体操作を行うための優れた補助機能の役割を果たす。
皮膚の下、——血管内に駆け巡る電気。
脱力した状態を作り出すことに注力した意識の流れの底で、下半身の筋肉が流れるように弛緩する。
わずかな緊張が走る。
炎。
上空に広がった暗闇は、気体のように縦横無尽に空中を闊歩していた。
立ち上がる熱気と、渦。
空気の温度の変化が、凄まじい勢いを持ちながら周囲の者たちに届く。
それは小さくない熱風となり、名古屋城内全体の色域を変えていた。
夜月は完全な脱力までにできるだけ思考回路をシャットアウトさせようと動いていた。
感情の“変化”は肉体の可動域を狭くさせる1つの要因となり得る。
一つの行動を完遂させるまでの僅かな距離と、間合い。
そのわずかな時間の“隙間”は、『紫電』をよりスムーズな形に移行させるための重要なポイントになった。
しかし、本来なら問題にならないレベルの距離の内側で、雑音が入る。
球体から漏れ出る暗闇の性質が、1つの属性に傾き始めていたことだ。
それは、夜月の中で予想していなかった出来事の一つだった。
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