◯
どんな働き者のアリも
始めはキリギリスだったんじゃないかと想像する
今働き者のアリもきっと
アリになった何かキッカケがあったのだろう
キリギリスであることを永遠に望んだ者もいずれはアリにならざるを得ない
アリになれないキリギリスは一体どうすればいいのだろうか。
レジの内側から見る景色はいつものコンビニではない
客と金のやり取りをする度に自信が失くなっていく
お釣りを渡すだけでなぜこんなにも緊張する
おびえた子猫のように高く小さい声で
「アリガトウゴザイマシタ...」と言う自分が恥ずかしくなる
客が大きく見えて
自分が小さく見える
ひどく不快だ
働くとはこんなにも不自由で普段の自分ではいられないものなのか
地獄は始まったばかり
店内では呑気にコンビニオリジナルの曲が流れている
ただリズムに合わせて店名を連呼してるだけなのだが
何だか割とクセになるメロディでつい耳を傾けてしまう
後何回、店名を聞けば帰れるのだろうか...
◯
オレの書いた履歴書を見ている人間を見ている。
ドキドキしながら
多分目は死んでいる
「はいじゃあ採用なら連絡します」
言葉の吐き方と人の放つオーラで採用でないことが大体わかる
不採用なら今この場で言えばいい。
この一週間採用してもらいたい気持ちと、働かなくてもいいという大義名分が欲しいから落としてくれという矛盾を抱えずに済む
まあ、でも
とにかくまあ良くやったよ
よく逃げずに面接を受けた
それだけで救われた気分だ。
そうやって何も変わらない人生を生きてきた
現状が変わらないことに安堵し
現状が変わらないことに悩む
やっと受かったコンビニのバイトは1日で辞めた
自分が変わるかもしれないと思い接客業を選んだが
自分に課した壮大なミッションは次の日にはもう怖くなっていた
辞めたことに罪悪感を感じる
劣等感もある
でも
働く恐怖感よりマシだ。
◯
今日は家の扉が重い
受かってもどうせすぐ辞めるバイトの面接に行った
ところで素直に自分を褒める気にはなれない
ダルく、生ぬるくなった体はジトジトとして重い。
重たくなった体で綱引きするようにドアを引く。
玄関に入るなり母が嬉しそうに寄ってくる
「おかえり!面接どうだった?」
「まあ、普通。」
「受かるといいね」
期待されてもそれに応えられる気がしない
面接までが踏み込める領域で
その先はオレには荷が重すぎる
母の優しさは罪悪感というオモリになって乗っかってくる
稼ぎたいのに働けないというジレンマがイラつきと不安を生み、それも上乗せされる
底の方に存在している淡い希望は押しつぶされてひびが入っているのを感じる
希望の上に要らないものを乗っけてきた母親に
嫌悪感と、でも少しの安心感を感じて矛盾が生まれる
優しさが邪魔な時もある
「優しさ」が自分の思考というフィルターを通れば
濁って心に届く
フィルターは汚れをコスためにある
一体どんな思考回路をしているのか
優しさが綺麗なまま心に届くことはない
心が濁るのが嫌だから
もう考えるのはやめよう。
そうやって逃げ込んだネットの世界に
またしても宝が眠っていた。
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