◯
何か好きなことに熱中して人生を棒に振れば
英雄か
地下生活者の2択
「好きなこと」を間違えれば地下行き
暗くて無音でホコリっぽい道を一人でひんやりしながら歩くことになる
いつ終わるのか
上がる道はあるのか
まったく光がない
居心地が悪いくせに
陽が当たらないことで少し安心してしまう
生き地獄のようで
でももう死んでしまったからどうでもいいという天国的開き直りもできる
そんな地下にしか存在しない
地下だからこそ見つけられる宝物もある
その宝物は地上では輝かない
社会には認めてもらえないから
社会とは
宝物を捨てた者だけが踏み込める場所
捨ててたまるか
オレは一生地下でいい
◯
画面の右から左に向かってツーっと流れてくるコメントは基本的に人を小馬鹿にしている
「ゲームなんてしてないで働け」
自分にも刺さってしまったコメントは見て見ぬフリをしつつ
ごまかすようにヘッドホンから聞こえてくる社会のならず者扱いをされた3人組の声に耳を傾ける
「そこはもっとこうでしょ」
「うるせえよ」
「お前出来てないじゃん」
自分達を地下生活者なんて微塵も感じてない3人が
何やら横に並んで座っている
そして集中している
キレている
「だからお前は勝てないんだよ」
「お前には負けないから」
表情と言葉、共に正直で本物だと感じる
トゲがあるようで
でもそれは
本音を隠すことが対人関係において“ルール”だと思っているから
この人達はそんなルールなんかに縛られていない
「TOPANGA」
格ゲー攻略番組とでもいうのか
ネットの生配信であーでもないこーでもないと言いながらずっと3人は「ストリートファイター4」で対戦をしている。
「トパンガはニートの集まり」
「こいつら弱いだろ」
言いたい放題言われている
「そこでそのミスはないわ」
「そんな技くらいガードしろよ」
コメントする奴らは分かったようなことを言うのが大好きだ
じゃあお前らがどんだけ強いんだと
格ゲー2日目のド素人が
つい心の中でコメントにコメントしてしまう
当の本人達は周りから何を言われようとも気にしてないのだろう
むしろコメントよりもひどい言葉を本人同士でぶつけ合っている
それはアドバイスであり
激励であり
煽りでもある
辛辣で、だからこそ核心を突いていて
そこに感謝もリスペクトも含まれていて
これが人間関係の本質だと感じる
自分もゲームは好きで相当やってきたが
格ゲーはひとあじ違う
負けることが苦痛であり
最大の学びでもある
勝つために何をすればいいのか
どういう思考を持てばいいのか
もういいよってくらい悔しさが教えてくれる
頭では理解しているのにプレイに反映させることができない
分かっているのに出来ない歯痒さを解消したくてまたプレイしたくなる
屈辱と苦痛にまみれていながら
またチャレンジしたくなる
楽しさしか味わえない他のゲームとは違う
ましてや現実世界とは感覚がかけ離れている
屈辱と苦痛にまみれたチャレンジなど
現実でやろうものなら死にたくなる
この“有意義な”チャレンジは
地下にしか落ちていない宝物だ
◯
タブレット内の3人のゲーマーを見ながら感じていたのは嫉妬だ。
羨ましさだ。
1円にもならない
それでもお金を稼ぐ以上の価値があると感じてゲームをやっているのだろう
自分が今必死になろうとしている格ゲーにすでに人生をかけている
オレより先に宝物を手にしている3人は
心のままに生き
心の声で会話している
自分が出せない心の声をいとも簡単にぶつけ合っている
林野に負けた時
素直にアドバイスをもらいにはいけない
ムカついて顔も見ようとしない
喋ろうともしない
黙ったまま。
本音で生きてるつもりが
本音を隠してしまっている
トパンガの連中を見ていると胸がギュッとなる
ムカついたのなら悔しさを言葉にすればいい
アドバイスが欲しいなら聞けばいい
「もっと楽しくゲームがしたい」
奥の方に閉じ込めた心が騒ぎ出してうるさい
締め切った扉には取っ手も鍵穴も存在しない
一度閉めてしまえばこちらからはもう開けることはできない
「もう苦しい」
「変わりたい」
閉じた扉の内側が
熱気で溢れて耐えられなくなった時
その扉は開く
開いた扉から勢いよく心が出ていき
早く来いよと先の方で待っている
心が手を招いているその場所に辿り着くことができれば
自分は変われるのだと確信めいた気持ちになる
着信でブルブル震える携帯を取る手に迷いはない
じゃあ採用なら連絡しますという言葉はウソではなかったらしい
自分を変えるきっかけは今まで自分が逃げてきた事にあると薄々感じていた
屈辱と苦痛にまみれたチャレンジ
その先に宝物があるかどうか確かめる必要がある
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