地区予選決勝。
既にホールには決勝進出校の何人かが集まっていた。
勿論和弥の元になど誰も来ない。むしろ20世紀で時間の止まったようなヤンキーのような和弥は、ジロジロと訝し気な視線を送られている。
やはり挨拶は部長である綾乃に集中する。U-16総合チャンピオンである小百合にも、そこそこ人は集まって来た。
和弥も別に興味もないとでも言いたげに、ホールの一角にあった4人掛けのテーブル席に腰をおろした。
そして、そこから参加校の面子たちを観察してみる。しかし『強者のオーラを感じさせる』ような人間はいなかった。
勿論和弥は超能力者などではない。少年漫画の主人公のように、相手の“闘気”を見分ける事が出来る訳ではない。
だが、少なくともジムや紅帝楼で肌がピリピリとするような感じはなかった。
(温い連中とばっかり打って、感覚が錆びつかないか心配だな)
「竜ヶ崎くん。隣、いいかしら?」
突然声をかけたのは、小百合である。
「お好きにどうぞ。俺の所有地って訳じゃない」
「………相変わらずなのね」
和弥は動揺を隠そうと、小百合から視線を逸らした。当然、それは逆効果で、小百合の顔をまともに見られない“理由”が出来たからである。
◇◇◇◇◇
『すいません。竜ヶ崎さんのお宅はこちらでしょうか?』
実は昨日、和弥のマンションをある女性が訪ねて来ていた。
「失礼ですが、どちら様です?」
父・新一の葬儀は所謂“家族葬”で済ませている為、弔問してくれたのは秀夫とその妻・美鈴くらいである。
その秀夫から「明日、僕や新一のクラスメートだった女性が、和弥くんのマンションを尋ねるかも知れない」との連絡はもらっていた。
『西浦双葉といいます。新一さんの高校時代のクラスメートです』
女性の名は“西浦双葉”であるとも。どうやら件の人物で間違いないのだろう。
「………申し訳ありませんが、オヤジは………」
『はい、存じ上げています。でもせめてお線香の一本も上げたいのです。お願いです、入れていただけませんか?』
どうやら女性に退くつもりは全くないようだ。新一の知り合いという女性に意地の悪い真似をするのも、あまり気分は良くない。
「分かりました、今ロックを解除します」
(あんがと秀夫さん。掃除しといて正解だったわ)
待つ事数分。女性はエレベーターで部屋の前に来たようだ。
ドアを開けた和弥は、あっと声を出しそうになる。
西浦双葉と名乗る和服の美女───和弥を麻雀部に勧誘した、小百合の面影があったからだ。
(まさかとは思うが………。この女性、委員長のお袋さん?)
和弥の予想は的中だった。
「小百合がいつもお世話になっています。小百合の母で双葉といいます」
部屋に上がった双葉は、新一の遺影に手を合わせる。
小百合の母が、新一と顔見知り?和弥は色々尋ねたいのを、グッと堪えた。
しばらく手を合わせていた双葉は、ようやく落ち着いたのか和弥の方を向く。
「……すいません、和弥さん。実は私は、いえ、西浦の本家は………新一さんに助けられた事があるのです」
「えっ?」
双葉の言葉に、和弥は驚きを隠せない。
当然だろう、自分を麻雀部に引き込んだ少女の母が、父と知り合いだったとは。しかし冗談とも思えない。双葉からは、あくまで事実を真摯に伝えようとする気概が見える。
「あれは、宮城の地元で私と新一さんが知り合った時です───」
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