(確かに親も無くなっちまったし、対面のハダカデバネズミには大差を付けられている………。
でもまだ勝負は終わっちゃいないのに、諦める必要なんかどこにも無ぇ。そう。例えこんなクソ配牌だろうがな………)
第一ツモで二筒を引いた和弥は、まずは場に2枚出た西を捨てる。続いてツモったのは七萬。今度は迷わず四索を落とした。
(へぇ~………。凄いねこの子。まだ諦めてないんだ。怖いくらいの勝負根性だね)
麗美の牌勢もかなり落ちているが、下家の今日子は和弥とは対照的に、筒子の一通が見えている。普段は筒井に合わせて建前上は『麻雀に運や流れなどない』と言っている麗美だが、幼少の頃から麻雀を打っている以上、この局で自分にアガリ目がないのは十分に理解出来ていた。
(ま、でも流石にもうこの半荘で私がやる事はないかな。頑張って筒井くん。あなたが余程のポカしない限りは、逃げ切れるハズだよ)
8巡目。
(よし………。残り一枚の九索を引けた。もうイーペーコーの可能性を追う必要はない。789の三色だ)
迷わず七筒を一枚落とす和弥。しかし………。
「ポンッ!」
筒井が七筒をポンしてくる。
「!?」
(奴は今この形から九筒を切った………八筒は暗刻で持たれている!)
これで三色完成の可能性は、限りなく低くなった。
(どうする? ラスト一枚の八筒に賭けるか?
いや………この調子で八筒をツモれるとは、とても思えねぇ………。和了れないハネ満より和了れる満貫だ)
中をツモった和弥は、最後の一枚の七筒を迷わず落とす。
しかし筒井の七筒ポンと和弥の最後の七筒落としに、今日子も平静さを装うのに懸命だった。
(余計なことしてくれちゃったわねグリかりさん………もう一通は諦めるしかないかな)
今日子は仕方なく、筒子のペンチャンを落としていく。
(4枚目の八筒……!?
三色を諦めて正解だった………!!
しかも北条のヤツ、八筒を端の2番目から出した……間違いない、ペンチャン落としだ。九筒も抱えてる!!)
10巡目。和弥は高目であるドラの九萬を引き、ついに聴牌。
「リーチ」
『リーチデス!』という卓からの女性の電子音声が鳴り、一瞬だが部室内に緊張が走った。久我崎の部員達も、誰も一言も発さず固唾を飲んで見守っていた。
思わず瞬間的に、牌の端を見てしまう筒井。
「鳴かないのか? 天上位さんとやら。中はあンたが対子で持ってんだろ」
「ふざけんな、今ダントツトップなのに。鳴いて手を短くするような事するかよ」
(クソガキが………。一発は避けておくか)
中の対子を持っているのを見透かされた事にギクッとしながら、その中を切りつつ筒井はチラリと麗美を見る。
(何でも人任せにしないでよね………ここは現物)
ウンザリとして同様に一発を避けた麗美だが、今日子の方は逆に11巡目に赤五索をツモる。危険牌を掴んだら四索を切ろうと思っていたが、今度は456の三色で聴牌し直しである。
(ラッキーだわ。安目三索でもよし………六索なら一気に勝負をつけられる。
全帯公か七対子だろうけど、七筒は4枚見えてるしノーチャンスな筈。チートイなら九筒単騎も有り得ない)
「追っかけリーチ!」
残りの九筒を横に曲げ、河に捨てたその時だった。
「ロン」
「え?」
驚く今日子を後目に、和弥はパタリと手牌を倒す。
「リーチ・純チャン・ドラ1」
裏ドラをめくると、表示牌は二筒だった。
「裏も一丁。12,000」
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