The Raptor

〜競技麻雀が嫌いな不良少年と、賭け麻雀が嫌いな優等生〜
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第73話:盲点

公開日時: 2024年3月16日(土) 00:10
文字数:1,753

 親の小百合がドラをめくる。


「ドラは九索ね」


 全員が山から牌を取り終え、ナン1局開始。しかし和弥の配牌は良くない。

 9巡目。小百合が一瞬だが、入り目を確認したのが分かった。


(委員長め、張ったな………。捨て牌はタンピン系)


 10巡目。小百合がツモった三萬をほんの少しだが、再び確認する。


(一瞬見たな…。一萬は捨ててある。筒子ピンズ索子ソーズの上は出来てるし、和了アガり牌は二・五萬一点だ)


「チー」


 小百合がツモ切りした三萬を鳴く和弥。そして打ったのはドラの九索だった。


「貴方って本当に、躊躇なくドラも切るわよね………」


「そりゃあな。ドラだろうがなんだろうが、要らねぇなら切るさ」


 一方の龍子も配牌もツモも良くなく、手が進まない状態である。


(くっ………。配牌もツモも腐っているな)


 龍子がチェックしているのは、当然ながら小百合でも昭三でもなく、和弥であった。


(赤入り麻雀と違い、鳴きを入れると満貫にするのは中々難しい………。見え見えな純チャンでドラを捨てたということは、雀頭で使っているのだろうな)


 たかが50万のサシウマ───それは龍子も同じである。しかし数年ぶりに、麻雀でここまで熱くなっているのもまた、紛れのない事実だった。

 結局南1局は誰もアガれず、流局となる。


「ノーテン」


「俺もノーテンだ」


 手牌を伏せる龍子と昭三。


聴牌テンパイです」

「俺も聴牌」

 瞬間、流石の小百合も驚愕する。


(う、嘘でしょう………。純チャン崩してまで五萬を止めているなんて………)


(これでいい………。局が進まず先生との差が3,000点縮んだ)


 和弥の形式聴牌を見て、龍子もニヤリと薄ら笑いを浮かべる。

南1局一本場。ドラは二索。


「リーチ」


 和弥は一発でツモったが、勿論裏は無いし一発もつかない。


「ツモ。一本場で2,100・4,100」

 和弥はゆっくりと手牌を倒す。

 4巡目で満貫親っかぶりの小百合は、苦々しい表情で点棒を渡す。


「こ、これは痛い親っかぶりね……」


 小百合は不満そうにこぼしたが、シカト気味に点棒を受け取る和弥。


(悪いな委員長。こっちも全国大会なんかよりずっと真剣マジなんでな)


 その様子には龍子だけではなく、昭三も唖然としていた。


(………あの竜ヶ崎の息子ってだけはあるな、このガキ。あっという間に龍子ちゃんに11,000チョイまで迫りやがった)


 サイコロボックスのスイッチを押す和弥を見ながら、龍子もほくそ笑んだ。


「やれやれ。役満和了ってまくられたとあっちゃ、笑いモンだな」


「………イカサマでもやりたきゃやればどうです? もっとも、俺の動体視力から逃げられるかは保障しませんが」


 ドラは五萬。


「吠えるのはこの局が終わってからにしろ。第一、キミのような青二才相手にサマ使うほど落ちぶれちゃいないさ」


 実際プロ雀士・MJリーガーだった頃の龍子は。積み込みやすり替えは無理でも、全自動卓の回転数を利用した牌の寄せなどを駆使して勝ってきた。MJリーグで新台が導入されると聞くや、すぐに自宅に購入し特徴などを研究したものである。しかし、和弥が相手ではそう上手くはいかないは分かっていた。さらに言えば、龍子が実際に牌を触った麻雀を打つのは実は3年ぶりなのだ。

 親を流された小百合の捨て牌は、一打目から中張牌の連打だ。やはりU-16チャンピオンのプライドがあるのだろう。必死である。


(委員長は789の全帯公チャンタ三色と国士の両天秤か。オイシイとこばっか切りやがって)


「カン」


 9巡目の和弥の七筒暗カンに、小百合の顔は引きつった。


(嘘でしょうっ!?)


「リーチ」


 嶺上牌リンシャンハイをツモった和弥は、即リーチにいく。

 龍子のツモ番。牌を引いた龍子も、眉間にシワを寄せる。


「やれやれ。一発でキミの当たり牌を掴ませられたよ」


 手の内から一萬を切る龍子。


「ほー。嬉しいな。自力優勝させてくれるのか」


「慌てるな。まだ勝負はついちゃいない。ラス親は私な事を忘れるな」


 しかし小百合はそれどころではない。


(も、もう国士一本でいくしかないわ………)


 三色の目が完全に消えた小百合は、仕方なく八筒を切る。


「ロン」


「きっちり親満だ。委員長が飛んだのでほんの少しだが俺の勝ちで終了ラストだな」


 ワンチャンスどころか。ノーチャンスだった八筒でアガられた小百合は、一気に青ざめた。

 しかし、龍子だけは不敵に笑っている。


「さっき言ったろう? キミの当たり牌を止めた、と……」

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