東4局。親は和弥の下家。ドラは南。
下家の配牌はここまで、ずっと悪くない。しかし、いまだノー和了という現状を考えると、決して褒められたモノではないだろう。しかしまだベスト8の可能性が消えた訳ではない。この大将戦で連続1位ならば逆転2でベスト8進出の可能性はある。さらにここまでこれたのは部員達のおかげでもある。その事を忘れてはいない。
この手が順調に育てばメンタンピン・赤1。大会では30符4翻は切り上げ満貫ではないが、最低でも11,600が手に入る。
(ならばこの手は、ギリギリまで面前聴牌を目指すべきね)
12巡目までは絶対に鳴かないと下家は心に決め、まずは一索を切る。
7巡目───
(高目が入った………)
「リーチ!」
だが、捨て牌から和弥は即座に、下家の待ちを看破した。
(相変わらず分かりやすいな下家さんは………。端から四萬切って、その周辺には何もなしか。赤五を使いたくて四萬を早々に切ったのが、見え見えじゃねぇか。最初の中張牌が四萬で、そのあとに手出しの白とか。せめて順番逆だったらな。端の3番目から二筒切ってリーチ。三・六萬一点だな)
現物を引けた和弥は、ここは当然一発は避ける。
その和弥とは正反対に、美里は一発で三萬を掴んでしまった。
(やれやれ。さっき対面の坊やに満貫振り込んだ後遺症かな)
(普通なら真っすぐ三萬切りだけど………。五萬を対子で持っている私に赤がないって事は、この子が抱えてる可能性が高いわね。赤が使えるんで顔がウキウキしちゃってるよ。高い手なのは間違いないわね)
仕方なく美里は、現物の北を切る。
(チートイか。下家のアタリ牌を止めたな、この女………)
手の内から北を打った美里を見て、まずは一枚アタリ牌が消えた事に和弥は安堵した。が、次の8巡目。和弥も六索を掴んでしまう。
(大した手じゃねぇし。ここはオリるか)
仕方なく暗刻落としをする和弥。
一方───こちらも逆転1位でベスト8入り出来る可能性もある上家には、勝負手が入っていた。
(ツモるか裏が乗ればハネ満………。待ちが悪いし、ダマでいきたかったけど。先制リーチされた以上、ダマにしてる理由はないね。ここまでドラが出てないということは、誰かが抱えてる可能性が高いね。シャボ待ちでアガれるとは思えない。ならば………)
「リーチ」
九索を切って、ペン七索で追っかけリーチをする上家。
10巡目。
顔の淀んだ上家が、静かに河に三萬を置く。
「ロン!」
「メンタンピン・赤1。裏はないけど11,600!」
上家の少女は何も言わず自分の対面、和弥から見て下家に点棒を渡そうと点棒入れを開けた次の瞬間。
「ちょっと待って。悪いけどダブロン」
美里もゆっくりと、手牌を倒した。
「チートイ・ドラドラ。6,400」
フロア内はエアコンが効いているとはいえ、控室のモニターを見て小百合は美里の薄ら笑いに寒気すら覚えた。結果として下家はリー棒+親ッパネ分の点数を失ったのである。
大会ではリー棒は上家取りルールなので、上家のリー棒も麗美が回収した。
(は、早くも飛びそうになっているなんて………)
もう上家の手元には4,500点しか残っていない筈。完全に読み負けした上家の惨状に、小百合は言葉がない。
「さて。誰かさんから5,200以上を和了れば、私が逆転で先制勝利だね」
上家は申し訳なさそうに、ただ俯くばかりである。
「………和了れれば、の話だろ」
異様な空気の中、下家の一本場で勝負が再開した。
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