東4局、由香の親はあっさりと流れる。
そして今日子の親から始まる南1局。ドラは六萬。
「ポン」
紗枝から出た發を今日子が鳴く。捨て牌からも、筒子の混一色狙いが濃厚だ。
しかし、である。
7巡目。
「チー」
由香は牌を絞ろうともせず、あっさりペン三筒を鳴かせてしまう。
次のツモで今日子はドラ表示牌でもある、しかも赤の五萬を躊躇なくツモ切り。最低でも5,800はあると見て間違いなさそうだ。
南と赤五筒がまだ見えていないことを考えれば、親満以上の可能性だって十分に考えられる。
そこに運悪く小百合が掴んでしまったのは、生牌の南だった。
一瞬戸惑ってしてしまい、小考していると当の要注意人物である対面───今日子がくすりと笑う。
「迷ってるなら切ってみたら? 案外通るかもよ」
「………それで直撃されたら、元も子もないでしょう」
小百合は仕方なく覚悟を決めて、南を止め雀頭の五索を打ち出した。
「な~んだ。さっきのチートイ見たらイケイケで来るかと思ったのに」
ここぞとばかりに煽ってくる今日子。だが、小百合はベタオリした訳ではない。
(聴牌したら最悪、オリ打ち狙いで南単騎でリーチにいくわよ)
心の中ではそう意気込んでいた。
「ねー、そんなことより彼氏。もう打たないの? あたし、さっきのリベンジしたいんだけど」
まるで小百合の事など眼中にないと言わんばかりに、後ろで観戦している和弥を興味あり気に窺うかのような今日子の態度に、流石に小百合もカチンと来る。
「貴女なんて、沢渡くんにはあと半荘10回打っても勝てないわよ」
この北条今日子という少女は、かなり感情が表に出やすいタイプのようだ。
小百合が挑発し返すと、表情が一変したのが分かる。
「何? あんだけ賭け麻雀嫌ってた西浦さんが、えらい心境の変化じゃん?」
「………賭け麻雀が嫌いな事には、今も変わりはないわ。ただ、彼の実力は認めてるというだけよ」
そういいながらツモった牌を確認する小百合。それは南だった。
(助かったわ。これで雀頭が完成してくれた)
ホッとして残りの五索を捨てる。しかし、次の瞬間。
「次こそアガるわよ。リーチ!」
由香のリーチ宣言牌は───四筒だった。
「ロン」
今日子はパタリと手牌を倒す。
「ホンイツ・發・赤。12,000」
やはり南もアタリ牌だった。
しかし変則三面待ちとはいえ、自分が止めても由香が牌を絞らないのでは状況は変わらない。
和弥と会った当初は、ギャンブルや賭け麻雀を嫌悪していた小百合だったが。
『負けても悔しいだけで済む麻雀なんて、俺は興味ない』
笑いながら点棒を払う由香を見て、和弥の言葉に納得するのだった。
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