竹田はずっと、和弥の手牌を凝視している。
(やっぱりな。役牌片アガリか。間違いなくこの北が和了り牌だったんだろうな)
点棒を受け取ると、淡々と牌を収納口に落としていく和弥。
一方、ついにキヨシの顔から完全に笑いが消えた。
(ワ、ワイが和了ればいいんや………。ワイがアガれば………)
心の中で、必死に自問自答を繰り返す竹田。完全に余裕のない状態である。
(1回戦目のように大きく構えて、デカい手をもっと狙うべきだったな。小場に持ち込もうとしたのが裏目に出たな)
勝利を確信する和弥。
いよいよ2回戦目大将戦の、南4局である。親は和弥。ドラは三筒。配牌は悪くない。
(よし………。仕掛けてもいいし、7,700以上なら一気に逆転出来る)
理牌もそこそこに、和弥は第一打の中を切る。当然竹田を含めた他家のケアも忘れなかった。
が。一つだけ異変に気が付いた。竹田の後ろから対局を見て牌譜を取っていた、大会の係員である。
先ほどまで威嚇するように和弥を睨んでいた係員だったが、竹田の手牌をずっと見ているのだ。
気取られないように、視線を自分の手牌に戻す和弥。しかしあの係員の表情は明らかにおかしい。
(何だ? この係員のお兄さん。大阪野郎の手の何を見てあんなに驚いてたんだ? しかも明らかにシブい顔をしてたじゃねえか)
それは竹田の第一打で明らかになった。
「ダブリーやっ!」
半ば叩きつけるように、牌を横に曲げるキヨシ。
その声に小百合と由香は圧倒されたが、綾乃と、そして龍子は呆れ返ってこのダブルリーチを見ていた。
(は? 完全に壊れたねドレッドヘアーくん。オーラスでトップ目がリーチなんてする?)
(良くこれで大阪代表なんてなれたものだな………。これじゃ『リーチしないと役無しでアガれない』って宣言したようなものだろう)
和弥も綾乃や龍子と同じ考えである。
(そんなダブリーで俺が日和ると思ったら大間違いだ。さては差が詰められたプレッシャーで、マトモな判断が出来なくなってるな?)
淡々と牌を切っていく和弥。
(しかもさっきのあの係員のあの顔………。通しも同然だぜ。完全に愚形でダブリーだろ?)
竹田はもう焦りまくっているのも隠そうとせず、「振り込め」とばかり両脇をチラチラと見る。
勿論ここまで来たら両脇の生徒も、何とか逆転の一手を作ろうと暴牌を続けるが、全くかすりもしない。
7巡目。和弥も追いついた。
(筒子の上は通る………。さっき七筒は入念に確認していたな。ドラ待ちだろ?)
和弥は静かにダマテンにとる。
(もしドラをもう一枚引いた時は、平和は無くなるが六筒切って四・五筒待ちだ)
11巡目。竹田がまた叩きつける様に牌を捨てた、その瞬間だった。
「ロン」
静かに手牌を倒す和弥。
「タンピン・ドラドラ。11,600。アガリトップで終了だ」
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