The Raptor

〜競技麻雀が嫌いな不良少年と、賭け麻雀が嫌いな優等生〜
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第60話:大会開始

公開日時: 2024年2月15日(木) 00:10
更新日時: 2024年2月15日(木) 03:43
文字数:1,680

「ここかい………」


 今、立川南高校麻雀部は立っているのは神奈川県・横浜市にあるイベント会場『クラブネクスト横浜』の前。

 県内でも中規模のこのホール会場が、今回の大会の決勝会場だ。


「ほー………。それなりにデカい会場でやるんだな」


「そそ。普段はライブ会場とかだけどね。ただ、中はゴキブリ出るって噂だから。虫が苦手な人は気を付けて」


 あっけらかんと答える綾乃だが、虫の類は一切ダメな小百合は瞬時に青ざめる。


「ちょ、ちょっと………。本当ですか部長!?」


「こんな事でウソを言ってどうすんのさ。っていうかひょっとして小百合ちゃん、虫とか全部ダメ系?」


(ゴキブリなんて得意な奴いねぇだろ………)


 2人で盛り上がっている小百合と綾乃を後目に、和弥は会場へと急いだ。


◇◇◇◇◇


「………おーおー。色んな学校が集まってるもんだな」


 地区予選を勝ち抜き、ここに辿り着いた64の代表校。早速各校の部長や顧問が入口で早速手続きを開始している光景に、ある種の感動すら覚える和弥である。


「は、入りましょう竜ヶ崎くん」


 虫が怖いのか、和弥の後ろに隠れるようについてくる小百合。小百合は本当に感情や精神状態が態度や表情に出やすい。


(どうにも委員長本人はポーカーフェイスを気取っているようだが。こういうトコは正直だな)


「すいませーん! 西東京代表立川南高校ですっ!!」


 受付に対し、周囲も引くぐらい元気な声を出す綾乃。隣の龍子も苦笑いしている。

 これまでの綾乃の態度を見ていると、天然とは思えない。やはり明らかに計算しているのであろう。綾乃の能天気な振舞いには、小百合も少々複雑な思いをしてきた。

 少ししてカウンターの奥から、真っ白く染まった髪を角刈りにした、小柄な老人が出てきた。


「よう、龍子。先生になったって噂は本当だったのかい」


「………これはこれは。お久しぶりです昭三しょうぞうさん。ところでここには何の用事で?」


 いきなり龍子に声をかけてきた、杖をついて少々弱々しいすら感じる老人。


「何って、麻雀見に来たに決まってるだろう。今は一般人カタギの身分だしな」


(なるほど、元あっちの世界の方って訳か)


 父・新一の件もある。余計に自分が関わる事はない。和弥がそう思った刹那。


「おう。待てや兄ちゃん」


「ん?」


 振り向くと見た事もない、ドレッドヘアーのいかにも品性のなさそうな少年である。少なくともこんな男は和弥の知り合いにはいない。


「オメー、竜ヶ崎和弥やろ。竜ヶ崎新一の息子の。ワイは大阪府代表桐生学園の竹田清ってモンや」


(………………)


 桐生学園。確かにAゾーンにその名前はあった。立川南が勝ち上がれば2回戦目で対戦するはずだ。


「オメーのオトンの噂、大阪の麻雀界まで響いてたで?」


「………そうかい。でも俺には関係ねぇ話だな」


 足早に去ろうとした和弥だったが、後ろから竹田が肩を掴んで引き止める。


「まあまあ待てや。開会セレモニーの後、すぐにワイらの試合やで。ちょっと見とけや」


「………時間があったら暇つぶしに…」


 しかし、そこに割って入って来たのは綾乃である。


「うんうん、優勝候補の桐生学園の噂は聞いてるよ! 見学させてもらうから!」


 正直桐生学園など下馬評にも上がっていない。綾乃なりの社交辞令なのは、容易に想像出来た。


「お、ワイらそんなに注目されとったんか! こら頑張らへんとな!!」


 そう言って竹田は、意気揚々と去っていく。


「馴れ馴れしい奴だな。俺さっさと休憩したいんだが。そこまでして見る価値ある連中なのかよ先輩?」


 吐き捨てるように呟く和弥だが、綾乃の意見は違ったようだ。


「そんな事言わずに。2回戦目で当たるかもだし」


 こうして和弥を始め立川南麻雀部は開幕セレモニーの後も残り、そのまま桐生学園の試合を見学する事になった。


「ツモ! 一発なら裏見なくても一緒やな! 4,000・8,000! 終了ラストや!」


 いきなり大将の竹田が倍満をツモる。桐生学園が2回戦進出を決めた瞬間だった。


(なるほど。あの捨て牌じゃ七対子チートイだの混一色ホンイツだのバレバレだ。だったら字牌待ちの意味はない。一枚も見えてない七索で待ったってワケか………)


 竹田の打ち筋を確認した和弥は、その場を後にした。

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