その後も局は進み、満貫や安い手をアガりつつ、南4局を迎えた。
ドラは九索。
現在和弥は34,900点持ち。2位の恵は30,000点。オーラスでの親ノーテンはその半荘は終了なので、和弥は一人ノーテンでもトップで終えられる。
しかし9巡目───
「リーチ」
恵がまたもリーチをかけてきたのだ。
(その捨て牌でか………)
和弥は無理せず、現物を切る。
(無駄な勝負をする事はない。俺はこの女とだけ戦ってる訳じゃねぇんだ)
最初は全員一発は避けられた。
そして次のツモで、少し長考する上家の麗美。
彼女の点数は21,400点。恵のリー棒を合わせれば、7,700点直撃で2位に浮上出来るのだ。
「通らばリーチ!」
八索を横に曲げる麗美。
「ロン」
待ってましたとばかり手牌を倒す恵。
「リーチ・タンヤオ・七対子。裏はないけど6,400」
まんまとトップを逆転されてしまった。
「1回戦目は私の勝ちね」
ストレートティーを注文しながら、勝ち誇ったような表情の恵。
両脇の綾乃と麗美の腕が低い、という訳ではない。実際このレートの勝負に真剣とも思えないが、実力は誰よりも和弥が知っている。
だが、それを抜いても恵の雀力は突出していた。
(絵に描いたような引っ掛けリーチだな。マジで口先だけじゃねぇなこの女………。だが)
1回戦目の清算が終わり、和弥は頭に浮かび上がる恵への評価を無理やりかき消す。
(この半荘のみで終わりな訳じゃねぇ)
しかし2回戦目・3回戦目は綾乃の徹底した早アガリ攻めにあい、連続3位。
4回戦目。
綾乃と麗美の徹底した妨害に合い、ここまで3位のままオーラス。
ドラは四索。
「どうしたの? まさかこれで終わりじゃないよね?」
3,900点差とはいえ、トップはまたも恵。
1,000・2,000ツモ、あるいは2,600直撃で逆転出来るが、両脇からの出アガリなら5,200以上が必要だ。
(焦るな。落ち着け)
和弥は自分にそう言い聞かせる。
そして7巡目。
(ここが勝負だな………)
点棒入れから千点棒を出した和弥は、すかさず牌を横に曲げた。
「リーチ」
全く怯まない和弥に、恵には自然と笑みが浮かぶ。
(一筒までは全部手出し………。白河さんからこの子が牌効率重視で、捨て牌に細工するタイプじゃないのは聞いている。ようするに萬子は大通りだね)
迷わず八萬を強打する恵。
彼女は根拠なく格好をつけたわけじゃない。和弥の心を折りにきたのだ。
だが───
「ロン」
「えっ!?」
和弥はパタリと手牌を倒す。
「メンタンピン・一発・ドラ・赤。裏はないがきっちりハネ満だ」
始めて恵から、余裕の笑みが消えた瞬間だった。
(やられたなぁ。そんなに早く七萬切って、両面決め打ちとは恐れ入ったよ………)
4回戦目。恵は初めて最下位に沈んだ。
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