ベスト8進出を決めても、ほとんど嬉しがることなく会場を後にし、愛車のNinja400を停めている駐輪場に向かう和弥。当然のように小百合もついてくる。
「ねぇ、竜ヶ崎くん。帰りも後ろ─――いいかしら?」
「………ほらよ」
帰りは電車で帰れ、とは何故か言えない。和弥黙って小百合にハーフキャップのヘルメットを渡した。
「ありがとう」
心から嬉しそうに、ハーフキャップの顎紐を止める小百合。
「いくぜ。振り落とされるなよっ!?」
Ninja400のアクセルを、全開にする和弥だった。
◇◇◇◇◇
「着いたぞ。こっからは委員長一人で……」
駅の前で、バイクを停める和弥。
「ねぇ、竜ヶ崎くん」
「んだよ」
バイクのエンジン音がまだ耳に残っている。信号待ちのような感覚になり、小百合はつい声が大きくなる。
「どこかの喫茶店かファミレスにでも寄って行かない?」
「一応聞く。なんでだよ」
「貴方と色々話したいから。駄目………?」
A組のクラスメート、特に男子はこの光景を見たら発狂するであろう。小百合がこんな時代遅れのヤンキーに見える和弥を食事に誘うなど、考えられることではない。
「………カフェ・オレ一杯くらいならいいぞ」
バイクを停め、目の前のファミレスに入る和弥と小百合。場違いなレベルの美少女が入って来たことで客の目は小百合に集中するが、小百合はお構いなしである。
和弥はカフェ・オレを、小百合は紅茶を注文すると、ひと時の沈黙が流れた。和弥もどうしたものかとお思っていたが、意外にも口を開いてきたのは小百合だった。
「………貴方のお父様。竜ヶ崎新一さんは、思想のようなものを持っていたそうよ」
「そりゃ初耳だな。オヤジは俺にはそんな自分の思想みたいなもの、一切話してはくれなかったな」
「私も母からの受け売りだけど。『麻雀は強い者が勝つゲーム、そして勝者が敗者から何かを奪うのは当然』───こんな事を言っていたそうよ」
小百合は一度手を止め、和弥の方を振り返った。彼女のなにかを訴えるような視線の意図は、和弥にもすぐに分かった。
「続けてくれ」
「でも実際、新一さんは宮城県のその港町では麻雀では敵無しだった、って。強すぎてあちこちの雀荘を荒らし回っては出禁にされて………。でもすぐに大きな仕事が回って来たのよ」
「そりゃあ秀夫さんからも聞いている。そのデカい仕事とやらを最後に、オヤジは高校卒業と同時に地元から逃げるように消えた、とな。連絡先も教えられたのは秀夫さんのみだった、とも」
「お待たせしました」
2人の前にウェイトレスがカフェ・オレと紅茶が差し出す。
「その大きな仕事って………。私の祖父から頼まれたのよ」
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