3回戦目。南3局・親は南野。
今回は拮抗した戦いとなり、僅かながら南野がトップである。
リーチ合戦に負けてここまで最下位で耐える麻雀をしてきた和弥だが、ようやく戦える手が入った。
ダブ南が暗刻で赤もある。
(第一ツモで雀頭も出来た。これは混一色までいけるか?)
迷わず一筒を切る和弥。
8巡目。發が出たらポンテンにとろうと思っていたが、絶好の八萬が入った。
「リーチ」
九萬をツモって裏も乗れば、三倍満まである手だ。
東を切っての和弥のリーチに、一方の南野は渋い顔をする。
───12巡目。
「安目だがツモったよ」
パタリと手牌を倒す和弥。
「リーヅモ・面前混一色・ダブ南・赤1。4,000・8,000」
「………バカヅキだなお兄さん……。俺ならその手は一通を狙ってダマテンだけどね」
本人は作り笑いを浮かべて強がっているつもりなのだろうが、南野の表情は親っかぶりで最下位に沈んだ事で、明らかに引きつっているのが分かる。
「そうですか。でも親っかぶりであンたがラスだ。
頑張って下さい。この半荘もラスならあンた持ち金消滅しますよ」
そして和弥の親で迎えた南4局。
「ロン。2,900です。アガリトップで終了ですね」
いつものように平然と、冷酷に牌を倒す。
これで南野は3連続ラスになり、秀夫から借りた200万は完全に無くなった。
「………………すまない本間。あと200万だけ回してもらえないだろうか」
この麻雀ルームは適温のはずだが、もう脂汗まみれになっている南野は秀夫に必死に懇願する。
「アテはあるんですか南野さん? 僕は金貸しじゃないんです。さすがに戻ってくる可能性のない金は貸せませんよ。
その200万だって、半分くれてやった気分でいますし」
奥歯を噛み締めた南野は、カバンから何か書類を取り出した。
「………家の権利書だ。これを担保に入れる」
(あるなら最初から出せよ………)
呆れた和弥だったが、同時にお節介な考えも湧き上がってくる。
(このオッサンが独身なら別にそれでもいい………。自業自得だ。
でも家族がいるならどうなる? あンた家族の事は考えてるのか?)
左手の薬指の痕を見て、和弥は心底苦々しい思いをしていた。
◇◇◇◇◇
「ロン。1,000点」
「なんだそれっ!? 片アガリじゃないかっ!!」
和弥の片アガリしか出来ない三色を見て、大物手を阻止された南野は思わず立ち上がる。
その様には同席している不動産屋の社長も、少なからず驚いたほどだった。
「もう終盤だしな。萬子はほぼ枯れてるし形テンのつもりだったが、アガれるとは思わなかったぜ」
淡々と点棒をしまう和弥とは対照的に、知り合った頃は南野には先輩面されて大物手を片アガリや後付けで何度も潰された過去を思い出し、秀夫も思わず顔をしかめる。
「ここで片アガリはルール違反でもマナー違反でも何でもありませんよ、南野さん」
思わず注意する秀夫だが、しかし今の南野は逆に言えば、それだけ冷静さを欠いているという事。
まさか麻雀憶えたての少年に見える和弥に、ここまで一方的にやられるとは。
南野自身も想像していなかった。
「ロン」
南野はまたも勝負手を張った直後に、今度は秀夫に振り込んでしまう。
「どうしたんです南野さん。こんな牌を簡単に出すとかあなたらしくないですね」
半分皮肉を込めて言った秀夫だが、半分は本音だった。
この局面で以前の南野ならば、絶対に出さなかったアタリ牌である。
結局南野は4回戦目もラスで終わり、もう手持ちは132万しか残っていない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!