「悪ィ、俺そういうのやってないんだ。個人情報漏洩もニュースになったしな。その手のアプリは一切入れない事にしている」
「だからってショートメールのみなんて、今時の若者らしくないじゃん」
部活が終わり。SNSアプリを和弥に勧める綾乃だが、和弥の決意は変わらない。
「カンベンしてくれ先輩。他人は他人、俺は俺だ。そういうモンにイチイチ反応するのは面倒なんでな」
「協調性ないわね~アンタ………」
今日子も白けた目で和弥を見るが、和弥は御構い無しである。
「………………オメーのクチから協調性とか。何のギャグだよ」
学生カバンを雑に掴むと、和弥は部室から出ていった。
「仕方ないね。さ、今日は解散にしよ」
綾乃が小百合、由香、今日子、紗枝の4人に促す。だが小百合はまだ悩んでいるようだ。
「……そうですね。では、失礼します」
翌日。
登校して下駄箱に靴を入れてる和弥に、小百合が近づいた。
「おはよう、竜ヶ崎くん」
「おはよ。珍しいな、委員長がこんな時間に教室にいないなんて」
相変わらず目線も合わせようとしない和弥だが、小百合も動じない。
「ショートメールがいいのなら。直接貴方に、電話をしてもいいのよね?」
「そりゃあ構わねぇがよ。何かありゃ白河先輩が………」
かすかにだが、ホッとしたような表情を浮かべる小百合。
「それを確認出来たらいいわ。それじゃあ教室で」
艶やかな長い黒髪を翻し、小百合は教室に向かう。
「なんなんだいってぇ………」
◇◇◇◇◇
土曜。和弥は久々に紅帝楼に来店した。
「いらっしゃい、和弥くん」
和弥を見るなり店員のシフトリーダーの井上は、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「どうしたんすか?」
「その………和弥くんと対戦したいって女の子が………」
「俺と?」
和弥は、ふー、と一つ息を吐いた。
「どこです?」
「あそこだよ。禁煙卓の4番卓」
(俺と打ちたい、ね。さてさて、どんな奴やら………)
禁煙コーナーを見る和弥。さらに奥に進むと、見覚えのある女性が手を振ってくる。
「やっほー、竜ヶ崎くん」
声の主は部長の綾乃だった。全く予想してなかった、とはこういう状態なのだろうか。
「………先輩か。なんであンたがここにいるんだ?」
和弥の怪訝そうな視線に気が付いたのだろう。
ケラケラと悪戯っぽく笑った綾乃は、開口一番答えた。
「何って、雀荘に来るのに麻雀打つ以外の理由なんてあるの?」
「麻雀打ちてぇなら部活で打てるだろ。わざわざ………」
「だって部室内じゃ『サシウマやろう』なんて言えないじゃん」
相変わらずの作り笑いを浮かべる綾乃に、少々イラつきを憶えた和弥である。
「………金はあんのかよ」
綾乃はニヤリと笑うと、バッグを開けて厚い銀行の封筒を見せた。
「200万あるよ。11回戦で6勝した方が勝ち。どう?」
「いいだろう。ただ、俺は今日は現金はそんなに………」
綾乃の対面に座る和弥。
「いやいや。お金はいいよ。その代わり私が勝ったら…」
「なんだ和弥クン。また随分な美人さんと知り合いじゃないか」
綾乃の言葉を遮るように、上家と下家に中年2人が座る。
「部活の先輩です。始めましょう」
椅子に座った和弥は、熱くなっている自分を諫めた。
1回戦目は和弥の圧勝だった。綾乃は何もせずに最下位である。しかし和弥には、綾乃がわざと無抵抗を演じたように思えた。
(そういや部活でも。この人の本気って、一度も見た事なかったな。それに今の対局は、明らかに見に徹してた)
2回戦目の東1局。和弥の下家が親でスタート。ドラは六筒。
8巡目。早くも和弥が両面カンチャンを引いて、満貫聴牌となる。
(三色は消えたが、これなら十分形だ………)
「聴牌したんでしょ?」
点棒入れからリーチ棒を出そうとした瞬間、綾乃がクスリと笑った。
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