(この戦いが終わったら、委員長に話すべきか………?)
小百合の母・双葉との昨日の会話を思い出す和弥。
いや、おかしな事を話して混乱させる事もない。決勝が終わったらゆっくり尋ねればいい。和弥は頭を切り替える。
『これより決勝戦を開始します。各校の先鋒は雀卓に、他の部員の方は控室にお願いします』
会場にアナウンスが鳴り響き、いよいよ決勝戦。「楽勝」という綾乃や龍子の予想に反して、立川南は苦戦していた。先鋒の今日子が大コケしてまさかの最下位。次鋒の紗枝も信じられないミスから3位。由香がトップ、小百合が何とか2位だが和弥がトップを取らない限り苦しい。
いよいよ大将戦。和弥の上家の大柄な男は、卓に着いたときから敵意をむき出しにしている。ツーブロックに金髪に染めた髪に、色黒で艶のない顔。他のスポーツでもやった方がいいだろうに、何で麻雀をしているのか皆目見当がつかない、得体の知れなさがにじみ出ていた。
(関係ねぇ。俺がここに座った以上、目指すのはただ一つ。トップのみだ)
和弥はできるだけ視線を合わせないよう、いくぶん反対側に体を向けて打っていた。
だからこそ、下家の少女もその男に注目したのかもしれない。痩せすぎとは言わないが、制服の上からも分かるスレンダーな体つきにお似合いの、細くしなやかな指をしていた。
大柄の男が雑に激しく打つのと対照的に、少女は音もなくツモり、捨てるときもそっと並べるように置く。
東1局目。
「ツモ。發のみ500・300」
和弥がさっと親を流す。どこといって不自然な感じのない進行だった。だが、その両側2人は、和了りを抑えているように感じた。
所謂『小場』と呼ばれる、点数の変動があまりない小さな和了りが続き、南4局を迎えた。点数に開きはない。和弥はトップとの差は3,900点ほどだが、トップ直撃の2,000か、トップが親なので1,600・800ツモ以上を和了ればトップとなる。
(とにかくここは我慢だ………。和了ればいい場面だからな)
9巡目。ついに和弥は聴牌。しかし役がない。
これには控室でモニター観戦している立川南麻雀部にも、動揺が走る。
「ど、どうするのよあれ………」
この劣勢は今日子の最下位が原因だというのに、それをも忘れているかのような口ぶりだ。
「タ、タンヤオか平和への手変わりを待つしかないね………」
顔では平静を装っていたが、綾乃も内心気が気ではないようだ。
(竜ヶ崎くん………)
文字通り祈るような思いの、小百合である。
10巡目。現在2位の大柄の男が点棒入れを開け、千点棒を取り出し捨て牌を横に曲げた。
「リーチ!」
(それを待ってたぜ…)
同順。和弥もツモ切りリーチ。
「な、何あれ…。役無しで…!?」
唖然とする今日子。
「あ! ちょっと待って下さい!」
紗枝が和弥の狙いに気づいたようだ。
(こいつとトップの差は1,100点。1,300以上でトップなのにリーチをかけてきた。それは役がないからだろっ!?)
「あ、これをツモ和了りすれば…!?」
由香も和弥の狙いが読めたようだった。
12巡目。
「ツモ」
裏は乗らなかったが、100点差で逆転トップ。大柄の男は和弥の手牌をまじまじとを見つていた。
「西東京代表は、立川南高校に決定しましたっ!!」
控室内は歓喜の渦に包まれた。
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