The Raptor

〜競技麻雀が嫌いな不良少年と、賭け麻雀が嫌いな優等生〜
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第16話:親友との再会

公開日時: 2023年11月2日(木) 00:00
更新日時: 2024年1月17日(水) 20:47
文字数:2,198

「あの~。お隣の東東京地区でシード獲得してる4枠って学校ってどこなんですか?」


 今は東東京の状況なんて心配してる場合じゃないだろ………。由香の質問にそうツッコミたくなった和弥だが、この部では新参者だしここは黙っていた方が懸命だろうと判断した。


「第3シードの東邦、第4シードの極星館女子。この2校はかなり前に決定している。

そして残る2枠は、去年から頭角を現してきた久我崎学園と、もう選手権の常連である永山女子商業高校だ」


「え? 久我崎って新設校なんですか?」


 龍子の説明に、今日子は驚いた。今年創立したばかりの学校が、激戦区である東東京地区のシード4枠を獲得するとは、少々信じ難い。


「久我崎も、元々は女子高だったんだよ。それで麻雀部が出来たのは男女共学になってからの3年前」


 綾乃が説明に割って入る。


「でも今の久我崎は各地区でのトレーニングマッチで、既に色んな強豪校を負かしまくってる学校でね。麻雀部も人数は全部で10人しかいないのに。

あ、来週ウチともトレーニングマッチ組む事決定したよ?」


「はぁ!? それはさすがにないでしょ!?」


 いくら何でも、たとえ5人集めなければならないとしても、十段の自分がいる以上それはあり得ないと今日子は思った。


「まあね。ただ、今の久我崎は凄く強い人が去年副部長になったんだ。そこからだよ、部全体のレベルが一気に上がったのは。ウチみたいにある意味、少数精鋭を掲げてる。そしてその副部長さんが、今年から部長に就任したんだ。

………そこの部長。誰かさんと、どっちが強いだろうね?」


 挑発的な笑みを浮かべながら、綾乃はチラリと和弥を見る。


「………上等じゃねぇか。トレーニングマッチはいつだ?」


 和弥には綾乃の視線が、明らかに自分に向けられているのが分かった。


「来週の土曜日だよ。久我崎学園とウチで、丸一日麻雀天国。って、土曜は空いてるよね?」


「ああ、俺は構わないぜ。そいつらのツラも拝んでおきたいしな」


 久我崎学園高等部がここまでの実力をつけたのは、今年から部長として就任したある女生徒の力が大きい。実質今の久我崎の麻雀部は、少数精鋭を掲げているものの、部長の彼女一人の“ワンマンアーミー”状態だ。


「よし、決まりだね。皆も土曜は空けておいてね? 私達が久我崎にお邪魔する事になるから。じゃ、早速実戦のカンを研ぎ澄ますため打ってみようか」


 綾乃はそう言うと卓上を片付け始める。

 麻雀部一同も卓の周りの椅子に座り、対局の準備を始めた。

 団体戦の説明の機会を無くした龍子は苦笑いを浮かべ、手荷物をまとめながら何やら考え事をしているようにも見えたが、特に声はかけなかった。


◇◇◇◇◇


 日が完全に暮れた午後20時─── 都内にある高級マンション5階の503号室。そのリビングで、2人の少女が対面していた。

 一人は綾乃。もう一人は、亜麻色のロングヘアをハーフアップにした美少女。久我崎学園高校麻雀部部長・花澤はなざわ麗美れいみである。


「やあやあ。よく来てくれたねハナちゃん」


「会いたいっていったの、綾乃でしょ。ま、丁度近くを通る予定だったし。喫茶店とかなら直にここに来ようと思って」


 麗美の前に紅茶を置く綾乃。


「だねー。お互い学校違っちゃってから、めっきりリアルで会う機会減っちゃったし」


「それにしてもこのマンションも、久しぶりだね。相変わらずおじ様もおば様も忙しそうみたいだし。まだ実質一人暮らし状態なんだ?」


「あっはは。もう慣れちゃったよ」


 綾乃と麗美は幼稚園からの友人で、かつては久我崎の中等部の麻雀部の部長、副部長として共に過ごしてきた。しかし学校が別々になってからは、綾乃も麗美もほとんど会えなくなり、こうして直接会うのは半年ぶりである。


「だから一緒に久我崎の高等部に進学しよう、って言ったじゃん。まだメンバーも集まってないんでしょ? 選手権の団体戦はどうするの?」


 はあ、とため息をついて紅茶を一口飲むと、麗美は親友の顔を見つめた。

 しかし、綾乃の顔は自信に満ち溢れている。

 これは“何か企んでいる”時にしばしば見せる、親友である麗美しか知らない顔だった。

 麻雀に対する綾乃の知識や技術は、そこらの表プロより上だ。元々頭の回転が早い事も知っているし、その卓越した洞察力もよく知っている。

 しかし今目の前にいるのは、同時に自分といる時にしか見せないような、気が緩んだ顔でもあった。“立川南を全国優勝させなきゃ……”というプレッシャーは微塵も感じられない。

 そしてその表情のまま、綾乃は大げさなゼスチャーで切り出した。


「ギリギリ5人だけどね。メンバーは揃ったんだ。しかもその5人目ってね………」


「ん? 何々?」


 これは麗美としても興味があった。メンバーを揃えただけでなく、綾乃がここまで自信満々とは。


「その5人目っていうのはね………。あの竜ヶ崎新一さんの息子さんだよ?」


「………………嘘ぉぉ!?」


 思わず麗美は大声を上げる。

 それはおかしい。いくら何でもあの竜ヶ崎新一の息子とは、あまりに世間が狭すぎる。


「嘘じゃないよ~」


 口調とは裏腹に、綾乃の顔も真顔だ。


「え、 えぇぇ………」


 麗美自身、まだ混乱している。麗美の父は関東最大の暴力団組織・桜政会おうせいかい直系花澤組の組長である花澤巌男いわお。いわば麗美は『極道の娘』である。

 和弥の父である新一は、花澤組で代打ちをしていた時期があった。

 麗美が麻雀の興味を持つようになったのは、新一との出会いがキッカケと言っても過言ではない。

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