下家の由香がノミ手を和了り、迎える南4局。親は勿論、現在ラス目の由香である。最下位でラス親だし、牌を絞っている余裕はないだろう。
元々由香は不要牌と思ったら役牌の生牌だろうと、ドンドン切り飛ばしてくるのだから。
小百合がそう思った矢先、早速自風牌の北を鳴かせてくれた。
「ポン」
今日子はわなわなとした感情を必死に抑えながら打っているのが分かる。親友と対照的な小百合に気づいたのだろう。由香は小百合を見て、ニコニコしながら語りかけてきた。
「楽しそうだね、さゆりん」
「えぇ。ここまで思い通りに打てると、悪い気がしないわね」
会話しながら、ここで小百合は聴牌になる。
「だよねぇ………。麻雀がメジャーになったとはいえ、同年代の打ち手なんて早々会えるもんじゃないからねぇ。対抗心が生まれるのは自然なことだよ」
(同年代の打ち手なんて早々会えるもんじゃない、か…。ま、ここの麻雀部がいい例だよな……)
ようやく6人となった部室を見て、和弥は綾乃に同意しながらカフェ・オレを啜る。
「いえ、対抗心だなんて別に……」
小百合は気恥ずかしくなって否定しようとしたが、逆に今日子はムッとしているだけ。
正直に言えば、確かに和弥や紅帝楼の常連たちと打った麻雀とはまた違った感覚ではある。特に紅帝楼で和弥と打った時は、打ち負かしたいというよりも「認めてほしい」「認めさせたい」といった感情が強かった。
勿論、今までの対局でも「相手の捨て牌や狙いを見ているの?」と思うような相手はいた。しかし口には出せないが、今日子や紗枝のような相手に混じり「自分は楽しく麻雀打てればいい」みたいな由香がいると、やはり気が滅入る。
「───ツモ。北のみです。300・500」
(この局は本当に、北に助けられたわね………)
そんな事を考えながら、ツモ牌を置く。
「こりゃやられたな。今日子もあたしも完敗だ」
「どこがよっ!?」
予想だにしなかった3連敗に、本当に納得が行ってないようだ。
「もう許さない、動画とか関係なしに徹底的に」
そう言いかけた今日子だが、由香に「いい加減にしたら!?」と一喝されてしまう。
普段は飄々としている由香の豹変に、今日子は愚か小百合も、そして綾乃も驚いたようだった。
「そろそろ自分の実力を自覚したら? 鳳凰荘の十段なんて、何のアドバンテージにもなってないじゃん。まだ分からない?」
普段は見下してた由香の態度に、今日は目を白黒させて言葉を失っている。紗枝も入ったばかりでこんな鉄火場に遭遇するとは思っていなかったらしく、
「多分さゆりんにも、今日子の手なんて透けて見えてると思うよ?」
小百合が反論する前に、由香が答えてくれた。
「南野の言う通りだ。もう時間だし帰ぇるぜ俺。それとあンた」
「な、何よ………?」
怪訝そうな顔をする今日子に、和弥はバッサリと言い放った。
「何とかってゲームの十段だろうが、リアルじゃ全く違うのは分かったろ」
数秒前まで殺気にも似た激情に駆られていた手前、今日子には和弥の言葉を素直に受け止める事も出来ない。
「………いつか泣かせてやるから」
「上等だ。やってみろ。ただよ、次までにもっと腕を磨いとくんだな。じゃあな」
短ランの前ボタンをかけ、帰ろうとする和弥に、今日子は絞り出すような声で虚勢を張る。
「…あ、それと白河先輩。明日はジムあるから休ませてもらうぜ」
そうして和弥は、麻雀部の部室から出ていった。
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