「何を一人で焦ってんだ大阪野郎。自分の捨て牌見てみろよ。純チャン・イーペーコー張ってるじゃねえか」
竹田は怒りのあまりブルブルと震える。確かにダブルリーチをかけなければ、手が純チャン・イーペーコーに変化してのテンパイだった。
「ま、どっちにしろ俺の和了りが先だったがな」
「に………2回戦目いくでガキっ!!」
立ち上がり、両の拳で卓のラシャ板を叩く竹田。あまりの剣幕に周囲で周囲で打っていた他校の生徒も、控室で見ていた立川南の麻雀部部員も驚くほど。
「全然構わねぇぜ。但し………」
和弥は自分を睨みつけてる竹田を、平然と睨み返す。
「ポイント的に1回戦目で消える事になりそうだしな」
和弥の態度に、只でさえエアコンの効いたフロアに冬かと思うような凄まじい悪寒と、重苦しい空気が渦巻いた。
「おい君!?」
案の定、係員が和弥の元に飛んできた。
「君もそういう態度は止めなさい。次やったら警告とするよっ!」
流石に和弥の態度は、度を過ぎた挑発と感じたようである。
「何やってるのよあの男っ!?」
勿論和弥には聞こえるべくもないが、モニターに向かって今日子が激怒する。今日子の怒声で、組員達は静まりかえる。しかし綾乃は別の意味で感心していた。
「ビビるって事を知らないんだね彼。見上げたもんだ」
「ロン。清一色・タンヤオ。12,000」
大将戦2回戦目の東1局。最早キヨシに勝利はない。それは後ろで見ている4人の中では一番麻雀歴の浅い、紗枝にすら確信出来る程の、竹田の壊れ具合である。
「私ですら、竜ヶ崎先輩が筒子の染め手を狙っているのは分かります。もう11巡目なのに………。あれに放銃しますか?」
紗枝だけではない。小百合も綾乃も、竹田が冷静な判断を出来なくなっている事にガッカリしていた。
「この人………一度崩れるとメンタルの調整が出来ないみたいね。頭の中はもう、麻雀どころじゃない筈よ」
小百合は自身が紅帝楼で、和弥に完膚なきまでに叩きのめされたのを思い出した。
はぁ~、と明らかに聞こえるようなわざとらしいため息をつくのは綾乃である。
(大阪のレベルも落ちぶれたもんだね………。この程度でブレるのが大将になれるんだ)
「ロン。8,000。終了だな」
両脇に和了がられまくられ、結局大阪代表・桐生高校は竹田が飛んで1回戦で姿を消す事になった。
「ち、ちきしょう………」
奥歯がカチカチと鳴り、竹田が泣いているのは誰の目にも明らかだ。
「………………」
竹田は縋るような目で和弥を見たが、和弥の答えは非情だった。
「………………弱いから負けたんだろ」
遠目から見ると勝者が敗者を労っているように見えるが、現実は違う。
『血の気が引いていく』とはまさに、今の竹田の状態を指すのだろう。竹田の顔が、どんどん土色になっていくのが分かった。
「もう打つ事はないだろうし、リベンジもないな。じゃあな」
和弥が控室に戻ろうとした、その時。
「やるじゃねぇか、坊主」
和弥に声をかけてきたのは───先ほど龍子と談笑していた、白髪の角刈りにした小柄な老人だった。
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