本日より、再開します。
麻雀部の部長である綾乃は、校内でも評判のいい生徒だ。
立川南三大美少女の一人というだけではいない。成績優秀で人当たりもいい性格なので、男子・女子問わず人気がある。
街を歩いてて芸能スカウトに声をかけられたのも、一度や二度ではない。
昨年度の高校選手権では惜しくも個人優勝を逃したものの、綾乃の将来に期待する声は多い。
そんな綾乃が何故麻雀部に所属しているのか─── 答えは簡単である。彼女は“天才”だから。
天才の名を欲しいままにした彼女だが……しかし彼女には同級生はおろか麻雀部部員、東堂龍子にも言えない秘密があるのだった。それが和弥の指摘する瞬間記憶能力である。
(りゅ、竜ヶ崎くんは気付いていたのね……悔しいなぁ)
小百合は唇を噛み締めた。だが……
「でも、確かにそうかもしれないわね……。部長の今までの打ち方を思い出してみると、竜ヶ崎くんの考えには同意出来るわ」
「最近委員長も俺の真似して、筒子を左端に置いたりしてるだろ。あれ最初やった時、先輩は明らかに動揺してたもんな」
自動販売機でカフェ・オレを買いながら、和弥は答えた。
◇◇◇◇◇
週が明けて月曜の部室。
「あっはっは! バレちゃったか。そそ、竜ヶ崎くんの言う通り!」
小百合に問われた綾乃は否定する事なく、むしろ清々しいほどの笑顔で肯定した。
「正直言って私、子供の頃から文系は勉強なんて一度もした事ないよ。だって一回教科書読んだら全部憶えれたもん」
綾乃の答えに小百合は目眩すら感じた。彼女の圧倒的な頭脳とセンスは、幼い頃から身に付いていたものらしい。
しかし、今重要なのはそんな事ではない。
(た、たった1局で部長の実力を看破するなんて……竜ヶ崎くんって一体……)
あまりの衝撃的な告白に固まる小百合の横で、和弥が珍しく笑った。
しかもバカにしている様子などない。
「ずっと不思議だったんだよ。トータルポイントがプラスで次に進めるルールなら、5人目はもう麻雀のルールさえ理解出来てればいい、数合わせでも入れときゃいいんだから。
それがなんで俺なのか………」
和弥はカフェ・オレを一口飲むと続けた。
「半荘2回ごとにメンバーが入れ替わる団体戦のあのルールは、最初はデータ取りに捨てる先輩には明らかに不利だもんな。自分が足引っ張るかもって自覚あったんだろ?」
由香も今日子も紗枝も、唖然としている。
和弥がそこまで綾乃の力量を把握しているとは、思わなかったのだろう。
「その通り。実は竜ヶ崎くん以前にも『入部したい』って生徒はいたんだよ。ここ、私も含めて可愛い子多いし。スケベ心丸出しの男子生徒も多かった」
「自分で可愛いっていうのかよ………」
和弥のツッコミにも関係なく、綾乃は続けた。
「でも皆企業でいう『今回は採用を見送らせていただきます』だったよ。そりゃそうでしょ。私の穴埋めなんだから。やっぱりある程度計算出来る、即戦力が欲しかったんだよ」
綾乃の笑い声が響く中、小百合はハッとした表情になった。しかし綾乃の演説はまだ終わってはいない。
「そこで小百合ちゃんに紹介されたのが竜ヶ崎くんって訳!」
綾乃は、まるで悪戯っ子のような表情で小百合を見た。
それを聞いて和弥は訝し気な表情をする。
考えてみたら、教室では小百合は自分とは全く接点の無かったのだ。どうして自分が麻雀を打てる事を知ったのか?
「言われてみたらその通りだな委員長。一体誰から俺が麻雀打ってるって聞いたんだ?」
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