「本当に高レートにも動じないね和弥くんは。新一と知り合った頃を思い出すよ」
「秀夫さん。高校の頃からオヤジは強かったですか?」
ノンシュガーのカフェ・オレを飲み干す和弥に、秀夫は黙って頷く。
(やっぱりか………。あの女性、西浦双葉だったか。『西浦家を助けてもらった』っていうの、そういう事なんだろうな)
そろそろ夜が明ける頃だ。和弥はアプリでタクシー会社に予約を入れた。
「んじゃ、秀夫さん。また高い卓が立ったら呼んで下さい」
和弥は秀夫の賭場を後にする。
◇◇◇◇◇
月曜の麻雀部。
卓を囲んでいるのは和弥、紗枝、由香、今日子である。綾乃と、そして小百合は見学である。
和弥は改めて、今まで歯牙にもかけていなかった由香の指先に集中した。
指先は雀士の実力の半分を物語るからだ。
(間違いない………。こいつ、今まで実力をセーブしてただけだ。俺としたことが迂闊だったぜ)
考えてみたら、和弥が入部してから今まで常に大物手狙いの初心者のような由香だったが、いざ地区予選が始まったら一回もマイナスになっていない。
(やっぱり南野って、先日打ったあのおっさんの………)
和弥が由香に注意する一方、ツモった今日子が得意気に語りだした。
「麻雀をやってる人間は大きく分けて2種類いるって知ってる? 1つは頭が良くて常に最新の情報を追い続ける頭脳派タイプ」
一呼吸おいて、今日子は言う。
「もう1つは、『とにかく麻雀が打てればそれでいい』っていうバカ」
得意げに語る今日子だが、しかし和弥は心底呆れていた。
(………テメーみてぇに。『自分は頭いいと思ってるバカ』もいるけどな)
「ねえ、それよりさ。竜ヶ崎くんがいつも行ってる雀荘って、ノーレートなら18歳未満でもOKなんだよ?」
流石は綾乃だ。場が刺々しくなる前に、空気を変えるのが上手い。
しかし───
「ほ、本当に大丈夫ですか? 高校生の身分で行って補導されたりしませんよね?」
紗枝の不安を、和弥はさらりと流す。
「大丈夫だ。金を賭けなきゃ、高校生も自由に入れる」
「そうですか、それならいいのですが」
和弥が普段金を賭けて打っているのを知っている小百合と綾乃だが、ここは黙っている事にした。
「但し金かかってないせいで、暴牌連発の初心者と当たる確率も多いのも覚悟しとけ」
ツモった牌を中に引き込み、リーチをかける和弥。
「リーチ」
和弥の下家である由香は、全く無スジの牌を迷いなく捨ててきた。
「まーた由香のノーガード戦法が始まった」
呆れる今日子だが、和弥の真意は今日子とは真逆だった。
(違うこいつ………今のは明らかに読み切って捨てた)
和弥がリーチをかけた以上、和了り牌でないからにはロン宣言は出来ない。
一見ノーガード戦法に見える由香だが、読みに勝機があるはずだ。
「ツモ」
由香はゆっくりとツモ牌を置き、手牌を倒す。
「ツモチートイ……800・1,600よ」
和弥の当たり牌を止めての七対子である。
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