控室に戻ってくる和弥。
小百合、由香、綾乃、そして紗枝と今日子以外の部員全員が、一斉に和弥に近寄る。
「凄いわ竜ヶ崎くん。あんな小場を作り上げられても、全く動じないなんて………」
特に小百合の和弥を見る目は、尊敬の眼差しそのものであった。
「1回戦の時みたいに大物手も混ぜれば良かったのにな、あのドレッドヘアー。あんなもんでペース乱されたりはしねぇよ」
美少女そのものの小百合に見つめられ、思わず顔を背ける和弥。そんなシーンを見逃す綾乃や由香ではない。
「おやおや~? 今小百合ちゃんに見つめられて、目を背けたねぇ竜ヶ崎くん?」
「ね? ね? あたしとさゆりんって、どっちが和弥クンの好みかな?」
鬱陶しそうに綾乃と由香をかき分け、椅子に座る和弥。そんな和弥の窮状を察したのだろう。龍子が声をかけてきた。
「お疲れ様だったな。キミのおかげで1回戦は突破出来た」
「………それよりも先生。今年から2回選…ベスト16から組み合わせはシャッフルって聞きましたよ」
「ん? 誰からだ? 私はそんな話は聞いてないぞ?」
怪訝そうな表情を浮かべる龍子。この様子だと、本当にルール変更は直前だったのかも知れない。
「丸子高校の理事長ですよ。まあ優勝するならどこで当たっても一緒ですけど」
和弥の挑発的な発言に、龍子の顔からも表情が消えた。
「ほう……なぜそう思う?」
(な……なんだよこの威圧感……)
いくら強いとは言っても教師であり、大人の女性であるはずの龍子から放たれる威圧に思わず圧倒されかけるが……。それを吹き飛ばすように和弥は言った。
「………先生でしょ、シャーレを掲げられる自信あるっていったのは。ま、それは俺も同じなので…」
「ほう。自信ありか。ならば楽しみにしていよう」
龍子の和弥に対する信頼度は、この段階で既にMAXに近い状態まで来ていたのである。もちろん和弥本人は知る由もないが……。
「とりあえず、明日から平行して個人戦もスタートでしたよね? そろそろ休みたいんですが」
「うむ。1回戦突破はオメデトウと言っておこうか」
(……どうも掴みどころのない人だな)
龍子はそう言うと、和弥の肩をポンと叩いた。
「まあ明日もよろしく頼むぞ」
トーナメント表を見ると、個人戦の開始時間は10時となっているが、小百合の出番は最後から2番目だ。
(昼近くか……それまで寝てよう)
そんな事を考えつつ部屋に戻りかけた和弥に龍子が声をかける。
「そうだ竜ヶ崎! キミにも話があるんだったよ!」
「……俺?」
いきなり指名されるとは思っていなく、思わず聞き返してしまう和弥である。
「そう。キミさ」
龍子はニヤリと意味ありげに笑う。
「どうだ? 完全競技ルールでまだ打った事はなかろう? 帰りに少し雀荘で打ってみるか?」
「えぇ………確かに俺、完全競技ルールは未経験ですけど………。先生こそいいんですか?」
予想外の言葉に、思わず聞き返す和弥。そんな様子に龍子はおかしそうに笑うのだった。
「キミに打つ気があるなら構わんよ。ウチのエースの実力もちょっと見てみたいしな」
(そんな簡単に許可していいもんなのか?)
疑問はあったが、これは貴重なチャンスだ。実戦の中で色々見えてくるものもあるだろう。そう思い直すと和弥は了承したのだった。
そんな和弥を、龍子は雀荘に誘うのであった………。
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