「こんにちは」
「こんにちは西浦先輩!」
麻雀部部室で、に入って来た小百合に、紗枝が元気に挨拶をする。
「………こんちは」
「竜ヶ崎先輩もこんにちは!」
小百合についで入って来た和弥にも、紗枝は同様に声をかけた。
「こんにちはさゆりん、和弥クン。今日は団体戦について発表らしいよ」
「ふーん。まあ先輩がくれば分かるだろ」
10分ほどして。部室に綾乃がやってくる。
「こんにちはー。龍子先生のトコ寄ってたんだ」
手にしていたA4封筒をテーブルに置き、早速紅茶等飲み物をセットする綾乃。
「竜ヶ崎くんも今日は紅茶にしない? たまにはいいじゃん」
「ただで貰う身だ。こっちは嫌は言いません」
「………私、竜ヶ崎くんがノンシュガーのカフェ・オレしか飲んでるの見た事ないのだけど」
小百合の突っ込みはもっともである。小百合だけではない、他の部員も和弥が他の飲み物を飲んでいる姿を見た事がないのだ。
「別に。先輩が『何か飲む?』って聞くからカフェ・オレって答えてるだけだ。醤油のコップ一杯とかじゃない限り飲むさ」
相変わらずな和弥の態度に、苦笑いを浮かべる小百合。
「それじゃあ団体戦の出場メンバーを発表するねー。先鋒は今日子ちゃん。次鋒は紗枝ちゃん。中堅は由香ちゃん。副将は小百合ちゃん。大将は沢渡くん」
明日から始まる地区予選。喜々として団体戦のメンバーを発表する綾乃。
「………肝心のあンたは出ないのかよ、先輩?」
しかしこれは和弥だけではない。部員全員の疑問でもあった。
「私は当日欠員が出た場合フォローする補欠。よろしくね」
そう言う綾乃だが、それが心からの本心ではないのは和弥はすぐに気付く。
「ふーん。まあいいけど。ようは地区予選全てトータルで勝てばいいんだろ」
「そういう事。流石に担任の先生からも『そろそろ受験の準備はしないのか』ってせっつかれたし」
そうはいうものの。綾乃も自分の真意を和弥に見抜かれているのは、分かっているようだ。
(しっかしまあ……随分と偏ったメンバーだな)
先鋒の今日子と不安はあるが、次鋒の紗枝と中堅は由香はギアを入れ直しが出来ないタイプには見えない。副将の小百合もミスが少ない安定タイプだ。
(東堂先生あたりが色々配慮したんだろうな。委員長まで繋いでくれれば俺が何とかしてやるか……)
予選で負ける事はない。和弥はそう確信した。
◇◇◇◇◇
その日の夜。和弥のスマホから着信音が鳴る。相手は小百合だった。
『こんばんは沢渡くん。今大丈夫かしら?』
「委員長か。大丈夫だ。どうした?」
『部長………どうして自分からメンバーを外れたのかしら?』
流石に今日の態度で、綾乃が自ら出場メンバーから外れた理由に和弥が気が付いたのは、小百合も察したらしい。
言っていいものか迷ったが。少し迷い、和弥は言葉を選んだ。
「自分が足を引っ張りたくないからだろ」
『え? どういう事かしら?』
スマホ越しに小百合が驚いているのが分かる。
「明日説明する」
『ちょ、ちょっと待って。明日から地区予選よ!?』
「その方が話しかけやすいだろ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!