純夏と嶺二のスマホが振動し、持ち主へとメッセージの着信を告げた。
「ん? ……あ」
「……げ」
「さっきの写真、ふたりにも送っておいたから。3人だけの思い出ってことでね♪」
三葉は唇に人差し指を当てると、純夏と嶺二に向かって微笑んだ。
「これってもしかして、この写真をバラまかれたくなかったらってことスか?」
「んー、どうかなー? またふたりがケンカしだしたらそうなるかもなー?」
「……それは無茶ありますよ。お互いが容疑者なんですから」
「……そうっスね」
先ほどまでの明確な敵意はないものの、純夏と嶺二の互いを見つめる目にはどこか寂し気な感情が宿っていた。
「探偵さんも言ってたじゃない。もしかしたら、他にも容疑者がいるかもって。それを信じましょうよ」
「他にも部室に入った人間がいるかもってやつですよね。十八女君は探偵って言っても一年だし、そんな信用できるんですか?」
「少なくとも、容疑者二名の嘘は見事に看破してたわね」
「ぐっ……それは、そうですけど」
「……俺は十八女を信じます。嶺二さんを疑わなくていいなら、そっちの方が気持ちが楽なんで」
「……でも、他に入室した人間がいたとしてもどうせ部員だろ。結局部員を疑うってことは変わらないぞ?」
「その時はその時っスよ」
「……それもそうか。僕も烏丸とは殴り合いたくないしな」
「カラスくんガタイいいもんねー。見た目だけなら運動部よね、絶対」
「まあ、中学ではサッカーやってましたから」
「そういえば、どうしてカラスくんて写真部に入ったの? 思音くんが言ってたけど、サッカー部に友達いるんでしょ?」
「それは……えっと……」
「? なんか言えないような理由なの? だったら無理に聞こうとは思わないけど……」
「ああっと……そうっすね。えっと……」
純夏はちらちらと三葉に視線を投げかけては、何度も口を開きかけては噤むを繰り返している。
「……まあ烏丸の入部理由はいまはいいじゃないですか。それより、十八女君が廊下で待ってますよ」
「ああ、そだったそだった。あんまり待たせたら悪いわね」
「床の掃除はこれ以上は無理だな……。おっ、嶺二さんカメラ」
嶺二は首に重そうなフィルムカメラを提げた。
「なんだよ。カメラ提げてたら悪いのか」
「いや、そんなこと言ってないっスよ!」
「やっぱりレイくんはカメラ提げてた方がらしいわね」
「スマホ派の相田さんがそれを言いますか?」
「な、なによ。レイくん、そんなに気にしてたの?」
「そりゃそうですよ。写真部なのに僕みたいなカメラ派が少数派だなんて、悪夢じゃないですか。仲間が欲しくて入った部活なのに、疎外感を感じるなんて」
「で、でも、スマホの方が便利じゃない?」
「それは認めますよ。それでも、僕はフィルムカメラが好きなんです」
嶺二はカメラを両手で支えると、ファインダーを覗き込んだ。
「デジタルは結局0と1。情報が捨てられたり、逆に誇張されたり……。だから、フィルムカメラこそが最も現実をそのままに写してくれる……」
カメラのレンズが純夏と三葉を捉えた。
「んー……やっぱりレイくんの言ってることはよくわからないわ」
「でも、俺は嫌いじゃないっスよ、嶺二さんのうんちく聞くの」
「薀蓄か……まあいいか。それより早く行こう」
廊下へと振り返った嶺二の横に、パタパタと三葉が駆け寄った。
「……ねえ、レイくん」
「なんですか?」
「……私、疑ったりしないから。スマホ派とかカメラ派とか、そんな理由だけでレイくんを疑わないからね」
「……うっす」
「なにその返事……もしかして照れてるの?」
「そんなんじゃないですよ」
「嶺二さん! 俺も疑わないですよ!」
「お前はそもそもどの派にも所属してねーだろ烏丸」
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