「や、バンちゃん。また来たよー」
「ん? なんだまた写真部か。今度はどうした?」
職員室内で最も入口に近い席。
下座と言っても過言ではない席に座っているジャージ姿の教師。
三葉がバンちゃんと呼び慕っているこの男性教師の名前は近藤 万紀。
教務主任をしており、ほとんど授業を行っていない万紀は職員室を訪れた生徒相手の受付もこなしている。
50代後半に相応しい厳つい見た目をしているものの、受付業務のおかげか生徒からの好感度も高く、三葉のようにあだ名で呼ぶ生徒も少なくない。
「今度は十八女もいるのか。写真部と遊んでるのか?」
「あはは、まあそんなところです」
万紀は探偵同好会がまだ部活動だった頃の顧問も務めていた。
同好会と成り下がった今も変わらず面倒を見てくれており、お情けで部室まで割り当ててくれている。
「あの、近藤先生。今日の写真部の鍵の持ち出しについての話を伺ってもいいですか?」
万紀の席は各部室の鍵を保管している棚に近く、あまり職員室を出ないことから鍵の番人も担っている。
基本的に部室を利用する時は万紀に断りを入れる必要があり、生徒が勝手に鍵を持ち出すことは許されていない。
「写真部の鍵? その話ならさっき相田たちにもしたばっかりだが」
「それは承知しているんですけど、一応ボクも直接訊きたくて……ダメでしょうか?」
「……トラブルか?」
「まあ、そんなところです」
「事件性は?」
「いまのところは……」
理由はどうあれ、三葉が教師ではなくシオンを頼ったところから大事にはしたくないという意思が感じられる。
少なくとも写真部以外の口からプリンのことをペラペラと話すべきではないと、シオンは判断した。
「手に負えなそうならすぐに相談することだ。それを約束するなら話してやる」
「はい、それはもちろんです!」
教師からすれば探偵ごっこをしている生徒なんて厄介事の種に違いない。
こうして活動を認めてくれているばかりか、協力してくれるのだから万紀の懐の深さはよっぽどだ。
伊達に生徒たちからの信頼を集めてはいないということだろう。
『さすが、オッサンは歳食ってるだけあって心広いよなぁ。どうして独身なんだろうなぁ……。不思議だよなぁ、シオン?』
『……ボクに振らないでよ』
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