「だって~、私だって被害者なのにさ~、それなのに犯人扱いするなんてひどいじゃないの~」
みんなからの冷ややかな視線を受けて、三葉はうだうだと抗議を漏らし始めた。
先ほどは濡れ衣騒動で男子二人がケンカ寸前まで行ったというのに、女子だとこうも雰囲気が変わるものだろうか。
もしくは、三葉が緩い性格をしているためだろうか。
そんな三葉に対して、津が優しく声をかけた。
「それは本当にすみませんでした。思い出したいまは、相田さんを疑ってはいないですよ」
「そうだよ~。私なんて、荷物が部室の中にあったのに締め出されたんだから~。一番の被害者だよ~」
「相田さんの荷物がまだ中にあったのに、戸締りをされてしまったんですか?」
シオンの問いかけに対して答えたのは津だった。
「確か、相田さんの荷物は机の下にあったんですよね。そのせいで気付かれずに鍵をかけられてしまったのでしょう」
「みんな薄情だよね~、酷いよね~」
「それじゃあ、荷物は鍵が戻って来るまでずっと部室の中にあったんですか?」
「ううん。特別にマスターキーで開けてもらったの」
「あ、そうかマスターキーで……!」
マスターキーなんてそう簡単に使える物ではないため、意識から除外してしまっていた。
鍵の番人から部室の鍵を借りなくても、マスターキーを使うことができれば部室に入れる。
部室の鍵を使った純夏と嶺二が犯人でないのならば、犯人はマスターキーを使ったと考えるのが自然だ。
シオンはマスターキーについての情報を集めるため、前のめりになって津に質問を投げかけた。
「マスターキーって、借りられる物なんですか?」
「生徒がですか? それは難しいですね。マスターキーは職員室で管理されている物と、用務員が管理している物の2つがありますが、どちらも生徒個人に貸し出しを行うことは無いと思いますよ。私たち教師だってそう簡単に持ち出せるものではありませんから」
「簡単ではないとは、具体的には?」
「マスターキーは職員室の一番奥にある金庫の中に保管されています。金庫を開けるには教職員のID認証が必要でして、誰がいつ金庫を開けたのかはサーバーに記録されているんです」
津は首から提げているIDカードホルダーをシオンに見せつけた。
カードホルダーに金庫の解錠に必要なIDカードが入っているということだろう。
「サーバーにある解錠記録も教師なら誰でも見れるので、大した理由がないのにマスターキーを使ったりするとすぐにバレて、主に近藤先生に問い詰められます。記録を見てみますか?」
「いいんですか?」
「問題ないですよ。ちょっと待っていてくださいね」
そういうと津は席を立ち、職員室の方へ戻っていった。
10秒程度で戻って来たその手には、例のUSBメモリが挿さっているノートPCを持っていた。
席に戻った津は軽やかにキーを叩いた後、PCの画面をシオンに向けた。
「これがマスターキーの持ち出し履歴です。一年前に私が持ち出してからは持ち出されていないようですね」
提示された画面には津の言葉通り、最終持ち出し履歴が一年前と示された記録が表示されていた。
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