正面からあなたが犯人ですかと質問しても、自白する犯人なんていない。
必要なのは誘導することだ。
犯人しか知りえない情報を聞きだす為に、話を誘導しなければならない。
幸い、シオンが津を疑っていることはまだ察知されていない。
だから、津も油断しているはずだ。
失敗は許されない。
気づかれたら、黙秘とはぐらかしでやり過ごされてしまう。
そうなれば、もう論理的に告発する道は閉ざされる。
『正念場だなぁ。緊張してんのか、シオン?』
『失敗したらすべてが水の泡だからね……』
『クックッ、そう気負うなよ。ただでさえでけぇ代償背負ってんだ。どうせなら、もっといいモノを背負い込みな』
サナはそう言うとシオンの背に寄り掛かって来た。
『っ!?』
淫魔であるサナに見かけ通りの重さは存在せず、ただ柔らかい感触だけがシオンの背中に当たる。
『特等席で見守らせてもらうぜ?』
『……サナの好きにしなよ』
どうする?
・様子を見る
・揺さぶる
・話を進める
・疑う
→・様子を見る
(まずは様子を見てみよう)
「これ以上考えても、部員の誰かが間違えて持ち帰った以上のことはわからないでしょう。1年前の話ですからね」
「職員室に張り込みでもしておくべきだったかしら。そうしたら、犯人が鍵を戻す決定的な瞬間を撮影できたかもしれないし」
「ミツ先輩、それじゃ発想が新聞部っスよ」
「相田さん、今からでも部長を変わりましょうか? 僕の方が写真部の部長に相応しいでしょ」
「異議あり! レイくんよりも私の方が人望はあるわ!」
「それは……否定できないっスね」
「おい、烏丸?」
「いや、その……」
「カラスくん? 私の味方だよね?」
「……う、うぐぐ……」
「こらこら、二人とも。パワハラはいけませんよ」
(純夏のメンタルにダメージが入ってしまったようだ……)
どうする?
・様子を見る
・揺さぶる
・話を進める
・疑う
→・揺さぶる
(揺さぶって反応を見てみよう)
「佐藤先生、本当に何もわからないですか? 微かなことでも、心当たりがあったりとかありませんか?」
「ないですね。お役に立てずすみません」
「本当ですか? 絶対に何も思い当たらないって言い切れますか?」
「そこまで念を押されてしまうと、少し困ってしまいますね……」
「なんか、思音くんの方こそ思い当たる節がありそうに見えるけど……」
「えっ? いや、そんなことないですよ?」
「まあ、あの日は僕と相田さんは外で撮影しかしていなかったから。部室のPCで作業をしていた先生に望みをかける気持ちはわかるかな」
「十八女君のご期待に添えず申し訳ありません」
『クックッ、危なかったなぁ?』
シオンの首筋を流れる冷や汗を、サナがワイシャツの袖で拭った。
(もう少し慎重に動かないと……)
どうする?
・様子を見る
・揺さぶる
・話を進める
・疑う
→・話を進める
(これ以上過去の話からは情報は得られなさそうだ)
「鍵の犯人の特定は難しそうですね。諦めた方が良さそうです」
「そういえば、十八女君はどういった経緯で相田さんたちと行動をしているのですか? 探偵同好会に所属していると言っていましたが、それと何か関係が?」
「それは……。相田さん、佐藤先生に経緯を説明してもいいですか?」
「そうね、思音くんにお願いしてもいい?」
シオンは頷くと、津に向かって経緯の説明を始めた。
「実は、写真部で保管していた相田さんのプリンを勝手に食べてしまった人間がいるんです」
「プリン、というと相田さんが今朝提げていたビニールに入っていた物ですか」
「そうなのよ! せっかく部費で買ったレアモノプリンなのに、部員の皆と撮影する前に食べられちゃったのよ!」
「ああ……また部費でお菓子を……。いえ、写真部が校内SNSの盛り上げに一役買っているのは事実ですけれど……しかしその言い訳もいつまで通用するのか……」
津は頭を抱えてしまった。
どうする?
・様子を見る
・揺さぶる
・話を進める
・疑う
→・揺さぶる
(少し揺さぶってみよう)
「過去のやらかしの話がもしかしたらプリンの盗難と繋がっているかもと思ったんですけれど……特に関係はなかったみたいですね」
「そうですね。鍵の紛失とプリンの盗み食いですから、関係性は薄いでしょうね」
「せっかく佐藤先生に話していただいたので、何かしらの関係性があってくれないと申し訳ない気持ちもあるんですけど……」
「気にしないでいいですよ。鍵の紛失を広めたりしなければ特に問題はありませんので」
「……やっぱり佐藤先生も特に思いつくことはないですか?」
「はい、まったく」
揺さぶりが遠回しすぎたようだ。
津は涼しい顔で何事もなく受け答えしている。
『シオンが女をホテルに誘う時もこんなんなんだろうなぁ……』
どうする?
・様子を見る
・揺さぶる
・話を進める
・疑う
→・様子を見る
(話を流れに任せてみよう)
「レアモノ、と言ってましたがどのようなプリンなんですか?」
「サトシンはテレビで見たことない? マンモス堂の円盤プリン」
「いえ、知らないですね。あまり美味しくなさそうな名前ですが……」
「重要なのは美味しさじゃなくてその希少性なのよ! もう! 一か月以上毎日抽選に挑戦して、やっと手に入った逸品なのに! 絶対に犯人は許さないわ!」
「犯人の目星は付いてるんですか?」
津の質問に対して、嶺二が少し気まずそうに受け答えた。
「一応は……。ただ、他の容疑者がいないかを確認するために、僕たちと十八女君はこうして先生に話を訊きにきたんです」
「それも無駄足だったっスけどね。容疑者は広がらなかったっスから」
「なるほど。結局は烏丸君が一番怪しいという状況なんですね」
→・疑う
「……どうして、佐藤先生はそう思うんですか?」
「え?」
「いま、言いましたよね。烏丸くんが一番怪しいって。どうして先生が、烏丸くんが一番怪しいなんて言えるんですか?」
「どうしてって……今朝に相田さんが部室に入った後、次に入室したのが烏丸君だから…………っ!」
今更失言に気付いたってもう遅い。
「どうして、佐藤先生が烏丸君が入室したことを知っているんですか?」
純夏が顧問への部室利用の報告をしていないことは万紀が証言している。
つまり、津が純夏の入室を知っているはずがない。
知っていてはおかしいのだ。
『面白くなってきたなぁ』
シオンの耳の中に、サナの舌なめずりの音が響いた。
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