「手応えはどうだ? シオン」
「んー……どうだろ。サナはどう思う?」
「さあてな。アタシがシオンよりも深く事態を把握してると思うのか?」
「訊いたボクがバカだったよ……」
長い廊下の中空に浮かびながら、サナはシオンに向かって微笑んだ。
「クックッ、そんな卑下するなよ。二人の容疑者を名探偵様が救ったのは事実だろ?」
「救ったって……まだあの二人の容疑が完全に晴れたわけじゃないよ?」
「第三の容疑者の可能性を見出しただけでも大手柄さ。シオンが無能だったら、あの短髪が吊るし上げられて終わってただろうよ」
「でも、最初に烏丸くんを信じたのってただの直感でしかないんだよね。論理的に考えたら、倉持先輩が白ければ烏丸くんは黒いのに。おかげで倉持先輩と険悪になっちゃった」
「いいじゃねえか、直感に従った結果ならよ。大事なのは後からでもロジカルな根拠を示せるかどうかだ。後出しだろうと説明がロジカルなら、アタシは納得するし満足だ」
「別に、サナを満足させるために謎解きしてるわけじゃないんだけど?」
「同じことさ。アタシが満足しないってことは、論理性が破綻してるってことだ。そんな推理、依頼人も容疑者も納得しちゃくれねえ。探偵としては致命的だな」
納得。
その言葉が重くシオンにのしかかる。
探偵の仕事は真犯人を見つけることじゃない。
それだけなら、代償さえ負えば”確認”で割り出せてしまう。
万人が納得する道筋で、真犯人を導き出さなければならない。
依頼者である三葉。
容疑者である純夏と嶺二。
そして真犯人すらも、言い逃れできないような論理で。
「始めは直感でいいのさ。怪しい理由なんて、お前の好き嫌いだって構わねえ。論理を突き詰めていけば、自ずと答えは出てくるんだからよ」
「……サナってオカルト存在のくせに、どうしてそんなに論理が好きなの?」
「論理はお前ら人間だけの物じゃねえってことさ。淫魔の存在だって、アタシが姿を現さなくても論理的に証明できるんだぜ?」
「へえ、どうやって?」
「”淫魔はこの地球上に存在しない”。この説が成立しなけりゃ、淫魔の存在は否定されねえ。存在しないことを証明するのは不可能だからなぁ……ロジック様様だぜ」
「あぁ、なんだっけそれ……。確か……悪魔の証明?」
「惜しいな。正式には淫魔の証明だ」
「……それ、ほんと? 慣用句に淫魔なんて言葉入ってるかな、普通……」
「おいおい、ロジックを愛するアタシが論理に関して嘘を言うと思うのか?」
「……まあ、確かにそうかも。それじゃあサナの助言通り、直感で信じてみるよ」
「クックックッ……」
シオンが恥をかくのはまた別の話である。
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