「一応もう一度最初から説明しておくわね」
「今日の朝、私はプリンとジュースを持って登校したの」
「朝イチで職員室に向かって、サトシンに報告してからバンちゃんから鍵を借りたわ」
「職員室を出てからは一直線に部室に向かって、冷蔵庫にプリンとジュースをしまって、職員室に鍵を返したの」
「放課後、私は荷物を教室に置いたままでまず職員室に鍵を借りに行ったんだけど……」
「でもちょうど職員室の前でレイくんに会ったから、鍵は任せることにして教室に戻ったわ」
「教室で少し友達と話してから部室に向かったら、既にレイくんは中に居たわね」
「そして、冷蔵庫の中身を確認したらプリンが無くなってたってのよ」
「バンちゃんに確認したんだけど、今日写真部部室の鍵を借りに来たのは私を含めてカラスくんとレイくんだけなの」
「つまり、このふたりのどちらかがプリンを食べたのは間違いないわね」
「以上が私の今日一日の行動よ」
話の大筋は既知の情報だったが、いくつか新たな情報も出てきていた。
まずは話の中に出てきた新たなふたりの登場人物を明確にしておくべきだろう。
「サトシン、というのは?」
「佐藤 津先生のことよ。写真部の顧問なの」
「なるほど、朝の入室前に顧問の先生に報告をしたんですね。ではバンちゃんというのは、近藤先生のことですか?」
「そうよ。番人に許可もらわないと鍵を借りられないからね。部室の入室者が3人っていうのも鍵の番人であるバンちゃんが言っている情報だから間違いないはずよ」
番人が把握漏れしている可能性も否定できないが、今はその可能性を追う必要はないだろう。
"確認"を使うのもリスクが高い。
必要があればまた考え直すことにして、今は入室者は三葉、純夏、嶺二の3人で進めていこう。
「相田先輩が倉持先輩を容疑者から外しているのは、放課後に出会っているからなんですか?」
「そうよ。冷蔵庫にプリンを入れたことは、朝の時点で部員の皆にはチャットで知らせてあるの。ほら」
三葉が差し出したスマホの画面。
画面に映っているチャットには、『部室の冷蔵庫にあるプリンを勝手に食べた者、処す』と書かれていた。
「レイくんは私が部室に来ることを知っていたのよ。それなのにプリンを食べるとは考えられないのよね」
「ふむ……。ちなみに、職員室の前で倉持先輩と別れてから部室に行くまでに時間はどれくらいかかりました?」
「んーっと……。教室で達と話したのは5分くらいだったから、多分10~15分くらいかしら」
急げばあの巨大プリンも10分で完食することはできるだろう。
しかし、先に部室に辿り着いた嶺二は三葉が教室で友達と話していることなんて知らなかったはずだ。
いつ持ち主がやって来るかわからない状況で手を出すのはリスクが高すぎる。
「……確かに、倉持先輩がプリンを食べたとは考えにくいですね」
「でしょ?」
「とゆーわけだ、烏丸。さっさと白状しろよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ。ほんとに俺じゃないんですって! なあ、おい十八女! なんとかしてくれ!」
純夏が縋る様にシオンの両肩を掴む。
依頼をしたのは三葉のはずなのだが、まるでシオンが純夏の弁護をしているような様相だ。
「えーっと……。倉持先輩が鍵を借りに来たのって放課後の1回だけなんですよね? 実はその前にも入室していた、なんて可能性は――」
「ないわ。バンちゃん曰く、写真部部室の鍵が持ち出されたのは朝に私、昼休みにカラスくん、そして放課後にレイくんの3回だけよ」
朝に三葉がプリンを置き、昼に純夏がプリンを食べ、放課後に三葉が嶺二のいる部室内でプリンの消失を確認。
なんとも納得のいくストーリーだ。
「……」
「おい、なんだよその目! お前まで俺を疑うのか!?」
「疑ってるわけじゃないけど……」
純夏は犯人ではなさそうに見える。
しかしそこに論理性は無い。
ただの直感だ。
論理的に言えば、最も犯人に近いのは消去法で純夏なのだ。
「それじゃあ、今度は烏丸くんの弁明を聞かせてもらってもいい?」
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