「……倉持先輩、鞄の中身を見せていただくことは可能でしょうか」
「嫌だね。どうしてそんなことをしなきゃいけないんだ」
「見せられない物でも入っているんですか?」
「誰だって鞄の中を見られたくなんてないだろ」
嶺二の言葉は尤もだ。
怪しいという理由だけでは、他人の鞄の中身を見るなんてそう許されることじゃない。
見せてもらえないならそれも仕方ない。
その道は諦めよう。
必要なのは鞄の中を見ることじゃない。
その中身を明確にすることができれば、中身は見れなくても問題ないのだから。
「では、口頭で構わないのでその鞄の中身を教えてもらえますか?」
「別に、おかしなものなんて入ってないよ」
「だったら、教えてくれても構わないですよね?」
「っ……鞄の中は教科書と、筆記用具と……あとはフィルムカメラだよ」
「カメラ、ですか? でも、この写真部はスマホで写真を――」
「相田さんといっしょにしないでくれ。僕は毎日自分のカメラを持ち歩いているんだ」
「私と同じスマホ派も、そしてレイくんのようなカメラ派も部内には存在するわ。まあ、毎日カメラを持ち歩いているのはレイくんくらいだし、割合はスマホ派の方が多いけどね!」
三葉は少しだけ誇らしげに胸を張り、対照的に嶺二は憎々し気に三葉を睨みつけた。
どうやら、この部には派閥による確執が少なからず存在するようだ。
これなら、プリンを食べたのは三葉への嫌がらせという動機も考えられるかもしれない。
「倉持先輩が毎日カメラを持ち歩いているのは間違いないんですね」
「ああ、それは俺も保証するよ。嶺二さんはいつも大きなカメラを首から提げてて……そういえば、今日は提げてないけど」
「それは部活中の話だろ。授業中もカメラ提げてるバカいるかよ。普段は鞄にしまってるに決まってる」
「なるほど。その鞄は教科書と筆記用具、そして大きなフィルムカメラによってパンパンになっているわけですね」
「そうだよ。何か文句あるか?」
文句ならある。
なぜなら、その鞄の中には十中八九カメラなんて入っていないからだ。
嶺二は、明らかにその鞄の中身を偽っている。
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