「ダメっスよ、ミツ先輩。ここで止めるなんて絶対にダメっス」
その目はまっすぐに津を睨みつけたまま、津は背中越しに三葉へ声をかけた。
「カラスくん……」
「……部長の意思を、部員である君が蔑ろにするんですか? ……ああ、そうか。君はそうでしたね。私が犯人でないと、君は困りますもんね?」
「っ……!」
津の挑発を受けて、純夏の拳が音を立てるほどに強く握り締められた。
すでに純夏は津に掴みかかっている。
これ以上神経を逆なですれば、暴力沙汰もありえるだろう。
むしろ、津はそうなることを狙っているのかもしれない。
騒ぎに乗じてUSBメモリを処分する機会を窺っている可能性はある。
「カラスくん……。私、もうカラスくんのこと疑ってないから。怒ってもないし……だから、もういいよ……。もう終わりにしよ?」
「そんなんじゃないっスよ。プリン泥棒の濡れ衣とか、この期に及んでどうでもいいんスよ」
「だったら、もう……」
「良くないっスよ……! 写真部的に、盗撮だけは有耶無耶のままになんてできるわけない!」
「!」
まるで言葉自体が熱を持っているかのような。
純夏の言葉で震えた胸が、きゅぅっと熱くなるような感覚だった。
「俺はっ、ミツ先輩や嶺二さんみたいにカメラに愛着とかないっスよ! スマホの方がいいとか、フィルムとか、正直さっぱりっス! 何度説明されても理解できません! どうしてお前みたいなのが写真部に入ったんだって、からかわれても仕方ないと自分でも思ってます。でも……! 派閥とか、ケンカするとか、それって全部カメラに本気だからじゃないスか……! ミツ先輩も嶺二さんもそれくらいカメラに一途で……そんなふたりを、自分は尊敬してるんで!」
「烏丸……」
三葉と嶺二の視線が純夏の背中へと注がれる。
元々体格の良い純夏の背中が、更に一回り大きく見えたような気がした。
「それなのに盗撮なんて、ふざけてる……! 盗撮は、ミツ先輩と嶺二さんの思いを汚し、侮辱する最低な行為だ! だから、俺は絶対に許さない。もしも先生が盗撮なんてしてるんなら絶対に許せない。白黒つけずにここでお開きとか、俺がさせません!」
純夏は言い切った。
誰がなんと言おうと、ここで津を逃がすことだけはしないと。
「カラスくん…………っ!」
純夏の言葉を受けて、三葉は涙を拭った。
その表情からは怯えは薄れていて、代わりに確かな決意が宿っていた。
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