『先生は知っていたんだ。部室の中を盗撮していて、その録画を見ていたから烏丸くんが最も怪しい立ち位置にいるってわかってた』
『確証はあるのか?』
『……ない』
『それじゃあ、まだシオンの妄想だなぁ。”確認”するか?』
『”確認”したって、立証できなきゃ意味ないよ。もう先生はボクの敵だってわかってるから、これ以上”確認”は必要ない』
必要なのは盗撮をしていた証拠だ。
盗撮に用いたカメラ、もしくは映像データが必要だ。
カメラは部室を隈なく探せば見つかる可能性はある。
ただ、時間がかかることは間違いない。
それにカメラが見つかったとしても、それを津と結びつけることが出来なければ追い詰めることはできない。
映像データも立証に使える可能性は低い。
管理されているとすれば津のスマホかPCだが、それを確認させてもらえるわけがない。
いまここで男子3人が結託すれば無理やりスマホとノートPCの中身を確認できるかもしれないが、それも徒労に終わる可能性がないわけじゃない。
暴力は万人が納得する解決方法ではないし、そんなことに2人を巻き込むわけにはいかない。
『けど、時間がないのも確かだぜ?』
『っ……!』
いまこの瞬間も津は部屋の外へ向かって歩いている。
たった数歩。
わずか数秒。
思考を纏めるのには猶予が無さすぎる。
「先生! もう少しだけ話を聞かせてください!」
時間稼ぎのシオンの呼びかけにも津は反応しない。
待ったをかけたその後の二の句が継げなければ、津が足を止める道理もない。
「っ……くっ……!」
シオンは納得していない。
津の言葉で納得なんてできるわけがない。
三葉も嶺二も同様だ。
こんな幕引きで納得できるわけがない。
だからこそ、声をあげたのは純夏だった。
「……教師ともあろう者が、盗み食いした生徒を放置するんスか?」
それは、プリンを食べた人間は自分なのだと自白する言葉にも聞こえた。
だから、津も思わず立ち止まって、振り返ってしまった。
けれどその目は違う。
純夏は決して、罪を認めてなんかいない。
それは、絶対に犯人を糾弾するという、強い意志を持ったギラついた瞳だった。
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