「ね、ねえ、もう止めない?」
震えた声が生徒指導室の中へ響いた。
「相田さん……?」
シオンの言葉を横から遮ったのは三葉だった。
その姿は小さく縮こまっていて、肩も小さく震えている。
探偵同好会を訪問した時の堂々とした態度も、教師相手にもフレンドリーだった活気さも、いまは見る影もない。
「プリンのことはもういいからさ……。だから……もう止めよう?」
三葉が怯えていることは、付き合いの短いシオンでもすぐにわかった。
最初はただのプリン泥棒だったはずのこの騒動。
それが今では盗撮にまで事が大きくなってしまった。
当事者である三葉が話を進めることに恐怖を覚えるのも無理はないかもしれない。
『盗撮犯なんて女の敵だろ? 止める理由なんてねえと思うけどなぁ?』
『……盗撮が事実だったとしたら、彼女が一番の被害者だから』
” 私は部活動中はジャージに着替えることにしてるの。
写真撮るときに制服の汚れとか気にしたくないからね。 ”
三葉は部活前には部室で着替えることを習慣としていたはずだ。
最も人に見られたくない姿を盗撮されているのは間違いなく三葉だろう。
『それに、これ以上話を進めたら写真部はもう元には戻れない』
三葉は教師もニックネームで呼んでおり、それは津に対しても例外ではなかった。
部員と顧問として良好な関係を築けていたのだろう。
そこに、盗撮という疑惑を植え付けられてしまった。
証拠があるわけでもないのに、シオンが楔を打ち込みヒビを入れてしまった。
『ここで止めたって元の関係に戻れるわけじゃねぇ。論理的には進む一択だろ?』
『人の感情は決して論理的じゃないから。進むのも止まるのも同じだったら、進む方が怖いよ……』
『……責任感じてんのか?』
『……探偵は真実の味方。だけど、ボクだって探偵である前に人だから。心は痛むよ』
『んじゃ、止めるか?』
目の前に逆さまになったサナの顔が現れた。
琥珀色の瞳がシオンをまっすぐに見据えている。
ここでシオンが止めたいと言ったら、サナはどうするのだろうか。
『……』
『……』
『……そういうわけにもいかないね』
『クックッ、健闘を祈ってるぜ。最前列でな?』
サナは再びシオンの背中に戻りもたれかかった。
サナはいつだってシオンの傍に居るのだから、今更最前列もないだろう。
『……ふぅっ、よし』
シオンの気持ちはこれで固まった。
真実の追及を止めることは絶対に誰にも邪魔させない。
そのためにも、三葉を説得しなければ。
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