「あれはまだ一年前、私がこの学校に赴任して間もない頃でしたね」
「相田さんの熱意に押されて顧問になったはいいものの、写真には詳しくありませんでしたので。部活動については部員の皆さんに任せっきりにしてしまっていました」
「それが良くなかったのかもしれません。ある日、写真部部室の鍵が紛失してしまったんですよ」
「部活終了時間後に職員室で帰り支度をしていたのですが、写真部部室の鍵が返却されていないと近藤先生が報告してくれたんです」
「ただ、近藤先生と部室を確認しに行くと鍵はかかった状態でした。なので、私たちは部員の誰かが戸締りをした後に誤って持ち帰ったのだろうと結論付けました」
「その日は部員の全員に鍵を持ち帰っていないか確認するよう連絡して、様子を見ることにしました」
「結局、鍵は次の日の朝には近藤先生の机に返されていましたよ」
「もしも鍵がすぐに見つからなかったら……きっと私は大目玉を食らっていたでしょうね」
「あまり生徒のちょっとしたミスを大事にしたくなかったので、皆には口止めをお願いしました。ですので、この話を知っているのは写真部部員の二年生以上と近藤先生、そして十八女君だけということになります。十八女君も、どうかお願いしますね?」
「わかりました」
鍵の紛失により大きな問題が起きていないのなら、わざわざ事を荒立てる理由もない。
シオンは口外しないことを津に約束した。
「鍵を持ち帰ったのが誰かというのは、今になっても判明していないんですね?」
「私の個人的な考えとしては、相田さんが怪しいと思っていますよ。確か、あの日に鍵を借りたのは相田さんでしたので」
「へー、ほー、ふーん……サトシンは私を疑うんだねー?」
三葉がニヤニヤとした笑みを浮かべながら、親指と人差し指で自身の顎を撫で擦った。
何か思うところがあるのだろうか。
「ふっふっふっ、思音くん。私、犯人がわかっちゃったかもしれない」
「えっ?」
まさか、三葉はこのタイミングでシオンよりも先にプリン泥棒までたどり着いたのだろうか。
部費でお菓子を買うような部長に、探偵が負けた……?
シオンが衝撃を受け困惑していると、津が三葉へ声をかけた。
「相田さん、部室の鍵を持ち帰った人がわかったのですか?」
「ふふっ、サトシンの証言を聞いたことによってスパッと特定できたわ」
「あっ、相田先輩がわかったのってそっちでしたか……」
早とちりであったことに安堵し、胸を撫で下ろしたシオン。
そのシオンの肩を、三葉がポンっと叩いた。
「技を借りるよ思音くん」
「技……?」
シオンに技と呼べるような技術の持ち合わせなんてなければ、三葉に対して披露した覚えもない。
疑問を抱きながら、興味津々にシオンは三葉へ視線を向けた。
するとそこには、人差し指をこめかみに当て、あざとく首を傾げる三葉の姿があった。
「さとうせんせいは~、どうして~ウソをつくんですか~?」
三葉はわざとらしすぎるほどにあどけなく、津に詰め寄って見せた。
それはもしかして……いやもしかしなくても……ボクのマネをしているつもりなのだろうか。
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