ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

プリンを食べたのは誰?
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26. エピローグ

写真部

公開日時: 2021年3月31日(水) 17:00
文字数:1,854

夕日もすっかり落ちて暗くなった頃。

 写真部部室には3人の部員が集っていた。


「ほら、見て! ヒビ1つ入ってないわ!」


 部長である相田三葉。


「マジで頑丈なスマホっスね……」


 首元に貼られた湿布が制服から見え隠れしている烏丸純夏。


「その頑丈さが役に立つ日が来るとは思ってなかったですけどね」


 そして、フィルムカメラを布で拭いている倉持嶺二。


「頑丈な上に、あの一瞬で自撮りができる撮影速度と手軽さを兼ね備えているのよ。サトシンを追い詰めたのはこのスマホと言っても過言じゃないわ」

「そこは十八女君じゃないんですか?」

「思音くんも頑張ったわね! 依頼した時はそんな期待してなかったんだけど、まさかこんな真相まで解明してくれちゃうとはねー……。依頼料、かさ増ししといた方がいいかしら?」

「元の依頼料っていくらなんスか?」

「んーっと……。確か、食堂でなんか奢るとかだったかな?」

「それは見合ってなさそうですね……」


 帰り支度と部室の片づけをしながら、3人は事件後の雑談に耽っていた。


「おっ、パトカーのサイレン」

「ようやく先生のお迎えか」

「そういえば、俺が手当てしてもらってる間に近藤先生と話してたんスよね? どういう感じでまとまったんスか?」

「諸々の報告をした後の細かいことはぜーんぶ先生方に丸投げ! 時間も遅いから、私たちは今日のところは帰っていいってさ。サトシンは拘束して応急処置。その後は警察に任せるけど、もしかしたら先に病院なんじゃないかって言ってたかな」

「ああ、割と血流してたスよね……」

「うっ……大丈夫だろ、多分」

「レイくんがそんな卑屈になる必要ないって。大切なカメラまで使って助けてくれて嬉しかったよ!」

「ほんと、嶺二さんに助けられました」

「そうなんだろうけど……。これで変な後遺症でも残ってたら後味が悪くて仕方ない」


 嶺二はブルっと背筋を震わせると、一層激しく布でカメラを擦り始めた。


「そのカメラ、まだ使うんスか?」

「……どうかな。壊れてはいなかったけど、とりあえず保留。ただ、どちらにせよ血痕が残ってるのは気分悪いから」

「慰謝料とかもらえるだろうし、新しいの買う?」

「あー、慰謝料……。そうか、一応僕も被害者か」

「俺は医療費ももらいたいところっスね」

「甘いわね、カラスくん。当然一番慰謝料がもらえるのは私よ! だって下着姿を盗撮されてるわけだし!」

「それは、そうでしょうけど……」

「自分で言うんスか、それ……」

「……なんか、ごめん」


 部室に少しだけ気まずい沈黙が流れ、その空気から逃れるように嶺二が席を立った。


「さて、それじゃあ僕は先に帰ろうかな」

「えっ、みんなで帰ろうよ」

「別に、いつもと同じ各自解散でいいじゃないですか」

「いや、いつも一人で帰ってるの嶺二さんだけじゃないスか?」

「そういえば、一年前の鍵が紛失した時もレイくんは一人で帰ってたんだっけ……」

「いいじゃないですか、そこはどうでも……。それに、今日はふたりだけで色々話した方がいいでしょ? 僕がいたら邪魔でしょうから、色々と」

「っ!」


 嶺二の声に反応して三葉が飛び上がった。

 その頬は薄っすらと赤らんでいる。


「一応言っとくと、僕は知ってましたよ。烏丸わかりやすいんで。相田さんが気付いてたかは知りませんけど……とりあえず、今日はふたりで話すのは確定ですよね?」

「い、いやー……むしろ、今日は色々ゴタついたわけだし、後日の方が――」

「俺は今日の内に、ちゃんと自分の口から言っておきたいっス」

「あっ、あー……そ、そう?」


 しどろもどろな三葉と堂々とした純夏。

 ふたりの姿は普段の関係性が逆転しているようだった。


「……はっ」


 そんなふたりを見て、嶺二は少しだけ口元を緩めた。


「やっぱり帰る前に、ふたりが並んでる写真だけ撮らせてもらおうかな」

「写真っスか?」

「えっ? やだ、それ、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「お願いしますよ、写真部部長。いまのふたりは、いまこの瞬間しか撮影できない。それは当たり前のことなんだけど、すごく重要に思えてきたので。くっつく必要はないけど少しだけ近づいてもらえます?」


 嶺二の言葉に促されるままに、三葉と純夏がぎこちなく並び立った。


 三葉は恥ずかしそうに少し縮こまって。

 純夏はつま先から頭までまっすぐに立って。


「そのまま、動かないでくださいね――」


 嶺二は両手でフィルムカメラを構えると、ファインダーを覗き込んだ。


「……デジタルは所詮0と1。人の感情を写すのなら、やっぱりこっちだな」


 誰に聞かせるでもなく呟いて。

 そして、一呼吸の後にカメラのシャッターが切られた。

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