ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

プリンを食べたのは誰?
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10. 証人:佐藤 津

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公開日時: 2021年3月15日(月) 12:00
文字数:1,422

万紀の席とは対照的な、職員室の奥の端にて。


「やっほー、サトシン」


 三葉の呼びかけに若い男性教師が振り返った。


 ワックスで綺麗に揃えられた七三ヘアー。

 1つの皺も見受けられないワイシャツ。

 そしてメガネをかけたそのルックスは、教師というよりはビジネスマンのようだ。


「相田さんに、烏丸君と倉持君、こんにちは。それと、君は一年生かな?」

「こんにちは。ボクは一年の十八女 思音といいます」

「私は佐藤 津。数学の教師をしています。よろしく」


 津の態度は物腰柔らかでとても丁寧な印象だ。

 押しに弱そうなので、三葉はこの性格に付け込んで部費をお菓子やらジュースに費やしているのかもしれない。


「ちょっとサトシン、数学の教師だけじゃなくて写真部の顧問もでしょ?」

「私はお飾りのような顧問ですから。顧問を引き受けたのも、相田さんに頼まれて仕方なくです」

「そうなんですか?」

「前に顧問をやってくれてた先生が別の学校に異動しちゃったのよ。だから代わりに入って来たサトシンが顧問をやるのは義務だと思って必死に頼んだわ」


 なんて理不尽な義務だろうか。


「私個人としては写真よりもビデオの方が好きなんですけどね。十八女君も、静止画より動画の方が良いと思わないかい?」

「思わないよね、思音くん?」


 スマホ派、カメラ派ときて、ビデオ派まで混在しているのかこの写真部は。

 これは近い将来内部分裂してもおかしくはない。




「ところで、十八女くんは私に何か用があって来たんだよね?」

「えっと、実はですね――」

「あれ? サトシン、スーツ着替えた?」


 本題を投げかけようとしたところで、三葉に話を遮られた。


「ああ、よく気付きましたね。実は黒板消しを落としてしまいまして。スラックスが汚れてしまったので、先ほど予備に着替えたんです」


 三葉は朝に部室を使用する旨を報告をしている。


 そのためズボンが変わっていることに気付けたということだろう。


「予備のスーツを学校に用意してるんですか?」


 シオンの疑問に対して反応したのは三葉と嶺二だった。


「あっ、そっか。シオンくんはサトシンのこと知らないもんね」

「佐藤先生はそういう先生なんだよ。前に少し見せてもらったけど、鞄も机も何かしらの予備で一杯だ」

「そうなんですね。でも、スーツまで予備を用意してるのは凄いですね」

「むしろ、スーツこそ重要だと私は思うよ。生徒は教師の服が多少汚れていても気にしないだろうけど、大人は違う。特に外部の人間や生徒の親からすれば、教師の清潔感はとても重要な要素なんだ。リスク管理としては、予備のスーツを用意しておくことは決して過大ではないよ」

「な、なるほど……」


 どうやら、津はリスク回避を重要視する性格のようだ。


「それ、バンちゃんにも言ってあげなよ。いっつもジャージだよ? 体育教師でもないのにさ」


 三葉が万紀の清潔感をdisった。


「近藤先生はベテランですから、多少のリスクは問題ないんですよ。その点、私は大した実績はないし、この学校にも赴任して2年も経っていない。ですから、私が近藤先生よりも気を遣うのは当然のことなんです」


 津は万紀のフォローをしたものの、その身だしなみには言及しなかった。

 つまり、その点に関しては三葉と同意見ということなのだろう。


『哀れなオッサンだなぁ……』

『良い先生なのは間違いないんだけどね』

『その言い方だと、シオンもオッサンは清潔感が無いと思ってるってことにならねぇか?』

『……』

『面倒見てやってる教え子からもこの扱いたぁ、哀れだなぁ……』

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