ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

プリンを食べたのは誰?
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23. 真相:犯人

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公開日時: 2021年3月31日(水) 17:00
文字数:1,149

「うぐっ!?」


 大きな物音は、人体が棚に叩きつけられた音だ。

 人がぶつかった衝撃で、収納されていたアルバムが床にドサドサと落ちていく。


 苦悶の声は純夏が漏らした物だ。

 棚に叩きつけられ倒れた後、背中を踏みつけられている。


「サト、シン……?」


 純夏を棚に叩きつけたのは津だ。

 背中を踏みつけているのも津だ。


 津の顔からは、誠実そうな笑みは消えていた。


「……相田さん。その写真を持ってこちらに来なさい」


 生徒を踏みつけながら言っているとは思えない冷静な口ぶりで、津が三葉へ命令した。


「えっ……っ……?」


 三葉は津の言葉に反応できていない。

 三葉だけではなく、シオンも、嶺二も、踏みつけられている純夏でさえも。


 津の突然の豹変に、脳の処理が追い付けていない。


「……聞こえませんでしたか? その写真を持ってこちらに来いと言っているんです……よっ!」

「ぐあぁっ!」


 津は足を少し持ち上げると、純夏の背へと踏み下ろした。


「っ! や、止めて!」

「止めて欲しいのであれば、さっさと写真を持ってきなさい? そらっ!」

「ゔっ! ぐっ!!」

「も、持ってく! 持ってくから!」


 三葉は慌ててアルバムから写真を取り出すと、津へと駆け寄った。


「は、はいっ! こ、これでいいんでしょ? だ、だから、もう……!」

「写真を破きなさい、私の目の前で。そして、破ったその全てを呑み込みなさい」

「っ!?」


 津は証拠を隠滅しろと言っている。

 三葉自身の消化器官を使って、跡形もなく証拠の写真を溶かすつもりだ。


「……わ、わかったわ。その代わり、もうカラスくんにひどいことしないで」

「いいですよ。ちゃんと全部食べられたらですがね」

「うっ、げほっ……。み、ミツ先輩……!」

「大丈夫だから……。写真なんて、食べたところで死ぬわけじゃないし」


 純夏を人質に取られている以上、三葉に反抗する術はない。

 三葉はその細い指で写真の両端を摘まむと――


「ごめんね……っ!」


 小さく謝罪した後、写真を勢いよく真っ二つに引き裂いた。


『あーあー、せっかくの証拠だったのになぁ……?』


 半分にした物を更に半分にして、また半分にして。

 やがてその両の手の平には写真の欠片の山が出来上がった。


「っ……」

「どうしました? 早く食べなさい」

「っ――!」


 少しだけ躊躇った後に、三葉はそれらを自らの口の中に流し込んだ。


「っ……うっ、うぇ……っ」


 写真なんて易々と呑み込めるはずもなく。

 三葉は懸命に口を動かして、吐きそうになっては堪えながら咀嚼して、少しずつ写真を嚥下していく。


「っ……ぅっ……んっくっ……! っはぁ……!」


 最後にはその喉を大きく動かしながら、三葉はついに写真を胃へ流し込んだ。


「口の中を見せてください?」

「……べっ!」


 それは些細な反抗心か。

 三葉は写真の全てを呑み込んだことを証明するために、思いきり赤い舌を伸ばして見せた。

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