「うぐっ!?」
大きな物音は、人体が棚に叩きつけられた音だ。
人がぶつかった衝撃で、収納されていたアルバムが床にドサドサと落ちていく。
苦悶の声は純夏が漏らした物だ。
棚に叩きつけられ倒れた後、背中を踏みつけられている。
「サト、シン……?」
純夏を棚に叩きつけたのは津だ。
背中を踏みつけているのも津だ。
津の顔からは、誠実そうな笑みは消えていた。
「……相田さん。その写真を持ってこちらに来なさい」
生徒を踏みつけながら言っているとは思えない冷静な口ぶりで、津が三葉へ命令した。
「えっ……っ……?」
三葉は津の言葉に反応できていない。
三葉だけではなく、シオンも、嶺二も、踏みつけられている純夏でさえも。
津の突然の豹変に、脳の処理が追い付けていない。
「……聞こえませんでしたか? その写真を持ってこちらに来いと言っているんです……よっ!」
「ぐあぁっ!」
津は足を少し持ち上げると、純夏の背へと踏み下ろした。
「っ! や、止めて!」
「止めて欲しいのであれば、さっさと写真を持ってきなさい? そらっ!」
「ゔっ! ぐっ!!」
「も、持ってく! 持ってくから!」
三葉は慌ててアルバムから写真を取り出すと、津へと駆け寄った。
「は、はいっ! こ、これでいいんでしょ? だ、だから、もう……!」
「写真を破きなさい、私の目の前で。そして、破ったその全てを呑み込みなさい」
「っ!?」
津は証拠を隠滅しろと言っている。
三葉自身の消化器官を使って、跡形もなく証拠の写真を溶かすつもりだ。
「……わ、わかったわ。その代わり、もうカラスくんにひどいことしないで」
「いいですよ。ちゃんと全部食べられたらですがね」
「うっ、げほっ……。み、ミツ先輩……!」
「大丈夫だから……。写真なんて、食べたところで死ぬわけじゃないし」
純夏を人質に取られている以上、三葉に反抗する術はない。
三葉はその細い指で写真の両端を摘まむと――
「ごめんね……っ!」
小さく謝罪した後、写真を勢いよく真っ二つに引き裂いた。
『あーあー、せっかくの証拠だったのになぁ……?』
半分にした物を更に半分にして、また半分にして。
やがてその両の手の平には写真の欠片の山が出来上がった。
「っ……」
「どうしました? 早く食べなさい」
「っ――!」
少しだけ躊躇った後に、三葉はそれらを自らの口の中に流し込んだ。
「っ……うっ、うぇ……っ」
写真なんて易々と呑み込めるはずもなく。
三葉は懸命に口を動かして、吐きそうになっては堪えながら咀嚼して、少しずつ写真を嚥下していく。
「っ……ぅっ……んっくっ……! っはぁ……!」
最後にはその喉を大きく動かしながら、三葉はついに写真を胃へ流し込んだ。
「口の中を見せてください?」
「……べっ!」
それは些細な反抗心か。
三葉は写真の全てを呑み込んだことを証明するために、思いきり赤い舌を伸ばして見せた。
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